日本と韓国は海を挟んでお隣の国で、歴史的にも文化的にも様々な繋がりがあります。特に近年においては韓国のエンターテインメントコンテンツは日本も含めて世界的に人気な他、韓国はeスポーツ(esports)が強い国としても有名です。日本のプロ団体や配信グループ等にも韓国の人が参加していることも多く、ファンや視聴者からはKR(またはKR勢)と呼ばれ、とても身近な存在です。
そんな身近な韓国ですが、私たち日本人で韓国語が話せる人は多くありませんし、ハングルを読み書きできる人はもっと少ないでしょう。韓国のアイドルや選手に興味を持って、韓国語の勉強を始めようと考えている人もいるかもしれません。韓国語やハングル文字の歴史には、中国や私たち日本も関わっていて、とても興味深いです。今回は、それに加えて現代の日本語や韓国語の状況、そして少し政治的な状況にも触れていってみます。
韓国語とハングル
ハングルは韓国語や朝鮮語の文字体系であり、日本語における平仮名・片仮名などと同じ関係性にあるものといえるでしょう。
日本人からすると韓国 = ハングルのイメージがあることも多く、韓国で話されている言葉を「ハングル語」と思ってしまいがちですが、ハングルは文字体系のことを指すので間違えないようにしましょう。日本では、ハングルの存在を知っている人は多いですが、ハングルを読み書きができる人は多くありません。そもそも日本は英語も得意な人が少ない国として有名です。

ハングルという文字体系は、日本人が知っている多くの他の文字とは大きく異なっています。まずは、ハングルという文字が生まれた歴史について見ていってみましょう。
ハングルの歴史は長くない
ハングルという文字体系は、日本人が知っているアルファベットや漢字のような文字体系とは違って、目的を持った人の手によって作られています。それも、中世に入った頃の事なので、比較的歴史も浅い文字体系と言えるでしょう。
西暦 | ハングルの歴史 |
---|---|
1443年 | ハングルが創られる |
1886年 | ハングル活字が創られ、出版物に使われ始める |
1948年 | ハングルの公文書への使用が認められる |
順番に、少し詳しく見ていきましょう。
漢字で足りない表現力を補う独自文字を作る
話し言葉と書き言葉が異なることはよくある事ですが、15世紀の韓国では韓国語が話されていて、文字に記す際には漢字が用いられていました。しかし、漢字だけでは韓国語の構造や特徴を十分に表現できなかったため、朝鮮王朝の第4代王 世宗(セジョン)が独自の文字体系「ハングル」を創りました。
1443年に創られ、1446年に公布されたハングルですが、思ったほど普及しませんでした。
ハングルが普及しなかったのは「簡単すぎる」ために当時の人たちから蔑まれたと考えられています。この理由は、私たち日本人でも理解できる部分がある気がします。日本では、十分な教育を受けられなかった女性が使っていた「ひらがな」は、女性の間で使われる女文字と呼ばれており、公的な文書などに使われることはなかった文字体系で、ハングルの歴史と非常に似通っていると感じます。
余談ですが、個人的には「ひらがな」を使った文書を残していることで、実は女性だったのではないかという上杉謙信に関する説は、非常に文化的・歴史的に興味深い説だと思います。
朝鮮王朝というのは、日本の義務教育でも習う「李氏朝鮮」の事で、李世宗はその4代目の国王ということになります。世宗(セジョン)は「朝鮮王朝第一の名君」とも言われ、ハングル文字を創っただけでなく、とても慈悲深い政治を行ったとされています。
ハングルの活字制作は日本人も貢献
近代に入った韓国(朝鮮)は、近代化されていく周辺諸国に飲み込まれていく激動の時代を迎えます。日本は韓国のために、韓国の近代化と中国(清)からの外交的な独立が必要と考えており、政治的に関与していくことになります。
日本の福沢諭吉の弟子である井上角五郎は、諭吉の「韓国近代化」という考えに有用と考え、1886年にハングルの活字を制作します。少し時代背景を確認しておきましょう。
西暦 | 出来事 |
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1886年 | ハングルの活字が創られる |
1894年 | 日清戦争 |
1910年 | 日韓併合 (日韓併合条約) |
日清戦争よりも前に、日本が韓国の活字制作や出版物の制作に関与していた歴史からは、文化的な変動と政治的な変動は同期しておらず、並列に進行しているものなのだと、改めて気付かされます。
朝鮮半島の政治的な独立を巡って、宗主国である清との対立が表面化したのが日清戦争です。朝鮮という言葉自体が朝(中国王朝)に鮮(従う)となっている通り、韓国・朝鮮は長い間中国に庇護されてきた朝貢国(冊封国)でした。そこに日本やロシア、欧米列強などが割って入った形なので、それは中国の不興を買うことになるでしょう。
当時韓国内でもハングルの使用を推し進めることについて意見は割れていて、開化派の朴泳孝(パク・ヨンヒョ)達によって漢字とハングル混合の初めての出版物が発行されました。日本による統治後は、ハングルと共に漢字の教育も行われていました。

ハングルの公文書への使用許可は最近の出来事
大戦が終わって独立を果たした韓国では、中国や日本から完全に独立をするという機運が高まっており、中国との冊法体制や日本の統治時代を思い出す「漢字」の使用をやめて、国語をハングルにしていく動きが強まります。独立した国には独立した言語が必要と考えるのは必然ではないでしょうか。
西暦 | 出来事 |
---|---|
1948年 | ハングル専用法 |
1970年 | 漢字廃止宣言 |
1972年 | 漢字廃止宣言の撤回 |
戦後にハングルを国語にする動きからハングル専用法が制定されましたが、定義や罰則規定などが制定されておらず曖昧だったため、法律家の中にはこれを「宣言だけ」と解釈する人もいるようです。この時点では、括弧で漢字を併記することを定めていましたが、2005年に国語基本法が定められて以降、大統領令を除いて漢字表記は必要なくなっています。
第5代大統領の朴 正煕(パク・チョンヒ)は漢字廃止を宣言しましたが、言論界などからの強い反発にあって、1972年には宣言を撤回しています。少し補足しておくと、この頃の韓国はまだ不安定な時期で、政権交代は軍事クーデターという時代です。朴 正煕(パク・チョンヒ)も軍人(陸軍大将)で、軍事クーデーターで政権を奪った人物の一人です。韓国の民主化は1987年の盧 泰愚(ノ・テウ)大統領以降となります。
漢字廃止宣言は撤回されましたが、漢字の教育が選択科目だったことや受験でも必要なかったことなどから、韓国国民の漢字使用・依存率は低下していくことになりました。漢字の使用ではなく、教育を禁止することで、結果的に「漢字廃止」が成された形です。
現在の韓国における漢字
2025年現在の韓国でも、漢字は使われることがあります。道路の標識やニュースの見出しなど、特定の分野において、未だ漢字の表記がされています。また、韓国の人は漢字の個人名があることが知られています。これは韓国の法律で出生時に漢字名を届け出る必要があるためで、日常的に使うものではないようです。人によっては、自分の名前の漢字を書けない人がいるという話も聞くことがあるので、よほど使用頻度が低い文字になっていると考えられます。
ハングルという文字は、文明が発達した後に整備して創られた文字体系であることから、とても合理的で便利な構造になっていることが容易に想像できます。日本の漢字に音読み・訓読みがあったり、平仮名表記すると長くなってしまうといった諸問題がハングルにはなく、日本語話者からすると羨ましくも思います。
一方で、現代の韓国では「漢字教育の必要性」も議論されているようです。一度手放した「漢字」ではありますが、中国や日本といった近隣諸国との関係性などを考慮した際に、漢字教育が韓国の未来に一定の利益をもたらすのではないかと一部で考えられているようです。
独立のためのハングル、協調のための漢字、どちらも国家として重要なものには違いないでしょう。今後の韓国の言語や文化は、現代を生きる人たちの手に委ねられています。
世界の中の日本語・韓国語
世界には約7000程の言語があるとされており、一つの国の中で何百もの言語が話されているような国も世界には存在しています。(例 : インドネシアでは700~800種類の言語が話されている)

日本人は、日本語が日本でしか使われていないことを知っていて、「世界的にみると日本語を母国語とする人は多くない」と思っている人が多いでしょう。
韓国語は、朝鮮半島の国である「北朝鮮と韓国」で使われている言葉です。朝鮮語と韓国語は同じ言語です。しかし、国が分断されてからの長い年月の間に言語にも変化が起きており、近年の調査では一般的な単語でも30%以上、専門的な単語に至っては70%近くが異なっているという研究結果も出ているようです。
母国語ランキング
世界の中で、日本語や韓国語はどのくらいの母国語話者(母語人口)がいるのでしょうか。ここでは一部を抜粋して紹介します。
順位 | 言語 | 人口 |
---|---|---|
1 | 中国語 | 13億7000万人 |
2 | 英語 | 5億3000万人 |
3 | ヒンディー語 | 4億2000万人 |
9 | 日本語 | 1億2700万人 |
14 | 朝鮮語/韓国語 | 7500万人 |
出典 : 母語人口のランキング | 翻訳会社AAインターナショナル
このランキングを見ると、中国語話者の圧倒的多数に驚かされます。中国語を学習すれば、世界の中でコミュニケーションできるようになる人が圧倒的に増える事から、世界的に中国語を学ぼうとする人が多い傾向にあるのも頷けます。
また、他の国で話されていない日本語ですが、世界的には第9位にランクインしています。韓国語も朝鮮半島でしか話されていない言語ですが、日本と同じように人口数で14位にランクインしています。
話者数ランキング
母国語以外の言語を学んでいる人は、日本だけでなく世界中にたくさんいます。母国語以外も含めて話せる人の数(話者数)のランキングとしてはどのようになっているのか見てみましょう。
順位 | 言語 | 話者数 |
---|---|---|
1 | 英語 | 13億4800万人 |
2 | 中国語 (北京語) | 11億2000万人 |
3 | ヒンディー語 | 6億0000万人 |
13 | 日本語 | 1億2600万人 |
20 | 朝鮮語/韓国語 | 8200万人 |
出典 : 【世界の言語】使用人口と使用状況 | 【翻訳会社】インターブックス の翻訳外注ノウハウ
日本語と韓国語については変化がほとんどありませんが、英語が突出して話者数が多くなっています。これは世界共通語とされている英語の強みでもあるでしょう。異なる言語圏の人が、お互いに英語を学習することで、言語の壁を乗り越えようとしています。この世界的な意識の関係で、元々英語圏で生まれ育った人は、非英語圏や英語表記のない国のことを未開拓で野蛮な国という偏見を持ってしまうこともあるようです。広い見識をもって、他の文化や言語を尊重する心を大事にしたいものです。
異なる出典元からなので、日本語話者数が少なくなっていたり、中国語の分類が細分化されて数字が少なくなってしまっています。詳細な数字を確認されたい場合は、是非出典元のサイトもご覧ください。
日本での韓国語学習支援
日本では韓国のコンテンツである韓流ドラマや韓国アイドルが、特に女性に人気な事で知られています。近年の韓国のエンターテインメントは世界的に高い人気を得ています。韓国のコンテンツに興味を持った人が、韓国の言葉(韓国語やハングル)を学びたいと思うようになるのは自然な事でしょう。
スマートフォンやインターネットなどが普及したことで、以前よりも格段に異なる言語圏の人とのコミュニケーションは容易になってきていますが、現時点の技術力やサービスではリアルの会話には追い付いていないため、私たちの世代では言語学習は役に立つ場面も多いでしょう。今後更に技術が発達し、リアルタイムで考えていることを相手の言語で伝えられるような時代が来れば、私たちは言語を学ぶ苦しみからは解き放たれる時代が来るのかもしれません。
言語の学習方法も時代とともに変化しており、最近ではインターネットなどを通じて独学で学習をする人も増えてきているようです。そういった学習意欲の高い人に向けて、国や自治体でも様々な学習支援政策を行っています。
賛否両論な日本の取り組み
日本では、国が主体となった言語学習者支援の取り組みがいくつもあります。
日本人向けの外国語学習や、海外から日本に来た人向けの日本語学習支援などがあるようです。具体的な内容は、自治体によっても異なっているようなので、興味のある人はお住まいの地域での制度やイベントの実施などをご確認ください。
しかし、こういった取り組みの中にも批判はあるものです。特に近年注目を集めているのが内閣府にある男女共同参画庁です。大きな予算を持っていますが、実態や成果が分かりずらいため、生活が苦しい国民の批判対象となっていると考えられます。男女共同参画庁の言語学習支援制度として、女性向けに韓国語講座が行われたりすることについては、特に男性から強く非難されているようです。

同省庁では「女性も活躍する社会を実現する」といった表現が用いられていますが、実際には「男性と同様に女性も働く社会」にし、国内の労働者人口を上げることを目的としていると考えられます。女性に韓国語を習得させても、日本の女性就労率への貢献はあまり期待できないように感じます。諸外国に比べて日本の女性は未就労人口割合が多く、男女平等の波に乗って日本の女性も働かせようというのだと思いますが、男女平等で女性も働いて、少子化対策で女性は出産もするとか、日本社会は女性にどこまで求めていくのでしょうか。
変化する言語と激動の政治
今回は韓国語とハングルという文字体系について、歴史や現代の状況をまとめてみました。近い国の事ですが、意外と日本では知られていないことも多いような気もします。ちなみに、私自身の興味は歴史が中心となっていて、残念ながら韓国語は話せませんし、ハングルはまったく読めません。複数の言語で会話ができる人は、本当に尊敬します。
言語は存在そのものが歴史の結晶のようなもので、その由来や構造、変化の過程などを学び、知っていくことは本当に楽しいと感じます。私たちの生きている日本は特に、近代になってようやく入ってきたような外国語も多く、現在進行形で複数の言語の融合や変化が起きていっていると考えると、ロマンが止まりません。言語の融合(ピジン言語)については、以下の記事にもまとめていますので、興味のある方はご覧ください。
日本語だけを見ても、毎年新しい言葉が生み出されていっています。こういった言語の変化は世界中で見られる現象ですが、中には誤用だったものが普及することで正しいことになってしまうものなどもあるので、言語を研究している人は本当に大変だろうと思ったりもします。
2025年の韓国では大きなムーブメントも
韓国と日本は、同じようにアジアの極東部に位置しており、同じような儒教的な近代国家で、非常に似た環境にあります。今回も少し触れた、男女平等や少子化といった社会問題なども非常に似通っています。お互いに尊重し合い、協力して未来を創っていけるような、そんな関係性になることを願って止みません。
2025年は、韓国にとって大きな変化が起きていっているように感じます。2024年12月に非常戒厳を宣言した尹(ユン)大統領は、2025年1月に拘束されていましたが、3月に入ってようやく拘置所から釈放されました。
ユン大統領釈放前のものですが、ひとつだけYouTubeの動画を紹介いたします。
日本のメディアでは韓国の状況があまり報じられていませんが、YouTubeやXなどの情報を見る限りでは、特に韓国の若い人たちを中心にユン大統領を支持(右派)する声が高まっているようで、大規模なデモなども行われているようです。利権にまみれた捻じ曲がった政治ではなく、国民のための政治を求める声が大きくなっているのは、日本と同じ動きのようにも感じます。
これから日本も韓国もどうなっていくのでしょうか。決めるのは私たち大人であり有権者です。しっかりと注意深く情報を見極めていきましょう。
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