2026年8月13日に、一般的に国旗損壊罪と呼ばれる法律が施行されました。
この法律によって、日本の国旗を損壊した場合に罪に問われる可能性が生じるようになります。
本記事は、国旗損壊罪を肯定・否定するものではありません。
本記事では、施行された法律の内容を確認するとともに、外国旗と日本国旗でどのように違う法制度になっているのかについても確認します。
また、「なぜ国旗を守るのか」「国旗は特別なのか」についても考えます。
国旗損壊罪について (2026年8月施行)
国旗損壊罪と呼ばれる法律が、2026年8月13日に施行されました。
正式名称は「国旗の損壊等の処罰に関する法律」(令和8年法律第69号)で、7月17日に成立、7月24日に公布されています。
本節では、施行された法律の内容を確認します。
「国旗の損壊等の処罰に関する法律」の内容
「国旗の損壊等の処罰に関する法律」の立法趣旨としては、
「国旗を大切に思う国民感情」の保護
と掲げられています。
その趣旨で制定・施行された法律の内容は、整理すると以下のような内容になっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 日本の「国旗」 |
| 処罰行為 | 損壊・除去・汚損 |
| 条件① | 公然と行うこと |
| 条件② | 人に著しく不快または嫌悪の情を催させるような方法で行うこと |
| 罰則 | 2年以下の拘禁刑 または 20万円以下の罰金 |
| 判断方法 | 行為の外形・周囲の状況など客観的事情を総合考慮 |
| 表現の自由 | 憲法上の自由・権利を不当に侵害しないよう留意する規定あり |
条文の核心は、
- 「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」により、
- 「公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損」する行為を処罰する、
というものです。
したがって、日の丸を傷つければ何でも犯罪になるわけではありません。
出典:国旗の損壊等の処罰に関する法律案(衆議院)
「国旗」とは何を指すのか
法律上の「国旗」は、国旗国歌法に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物です。(有体物:法律用語としては、大まかには「物理的な実体のある物」といった意味)
したがって、本物の旗として掲げられている日の丸などが典型です。
一方、
- お子様ランチについている小さな日の丸
- 絵画の中の日の丸
- 日の丸が描かれたTシャツ
- 漫画・アニメ・ゲーム・生成AIなどの創作物
まで一般に処罰対象になるわけではない、と説明されています。
要件ではない「侮辱する意図」
興味深いのは、法律が「日本を侮辱する目的で」といった
内心の目的を犯罪成立の要件にしていない
ことです。
代わりに、
- どのような行為だったか
- 周囲がどのような状況だったか
- 客観的に見て著しい不快・嫌悪を催させる方法だったか
を総合して判断します。これは法律にも明記されています。
たとえば、
- 国旗を自分で公然と燃やしている様子をライブ配信する場合は対象になり得ますが、
- その映像を報道することや、既存映像をリポストすること自体は対象ではない
という整理も示されています。
施行後3年を目途に検討される
また、新法の附則には、施行後3年を目途に、制度が
「国旗を大切に思う国民感情を保護するのに必要かつ十分なもの」
になっているか検討すると明記されています。
従来から刑法92条には外国国章損壊に関する規定があり、外国の国旗などについては一定の場合に処罰規定が存在していました。
今回の法律によって、日本国旗についても別の保護法益・構成要件のもとで処罰規定が設けられた、という位置づけになります。
外国国章損壊罪について ― 外国旗との違い
日本国旗の損壊について法制度化される前から、外国国旗(国章)については罰則を規定した法制度が存在しています。
本節では、外国国章損壊に関する法制度の内容を確認するとともに、今回施行された国旗損壊罪(日本国旗損壊に関する法律)との違いを確認します。
外国国章損壊に関する法制度(刑法92条)の内容
一般に外国国章損壊罪と呼ばれているのは、刑法92条「外国国章損壊等」で定められている犯罪です。
刑法92条(外国国章損壊等)では、
外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。
さらに第2項で、
外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない
とされています。
つまり、外国政府側からの請求が必要な特殊な犯罪です。
出典:刑法 | e-Gov 法令検索(デジタル庁が整備、運営するWebサイト)
違法と犯罪は同じではなく、また、刑法に定められているものだけが犯罪でもありません。
行政法・刑法・犯罪などの言葉については、以下の記事でも詳しく解説しています。
💡関連記事:不法滞在は犯罪なのか? ― 法的根拠・刑罰規定と運用実態の整理
損壊に関する法制度上の違い ― 日本国旗と外国旗
刑法92条の外国国章損壊等で定められた内容と、2026年8月に施行された国旗損壊罪(国旗の損壊等の処罰に関する法律)は、どのような違いがあるのでしょうか。
以下表で比較してみます。
| 項目 | 外国国章損壊等(刑法92条) | 日本国旗損壊等(新法) |
|---|---|---|
| 保護対象 | 外国の国旗その他の国章 | 日本の国旗 |
| 行為 | 損壊・除去・汚損 | 損壊・除去・汚損 |
| 公然性 | 条文上要求なし | 公然と行う必要あり |
| 方法 | 特段の限定なし | 著しい不快・嫌悪を催させるような方法 |
| 主観的目的 | 外国を侮辱する目的が必要 | 侮辱目的は不要 |
| 起訴の条件 | 外国政府の請求が必要 | そのような条件なし |
| 刑罰 | 2年以下の拘禁刑 または 20万円以下の罰金 | 同じ |
| 主な保護対象・趣旨 | 外国との国交・外交関係 | 国旗を大切に思う国民感情 |
| 表現の自由への明文規定 | 特になし | 不当に侵害しないよう留意 |
| 法律 | 刑法92条 | 独立した特別法 |
重要な点について、以下でそれぞれ確認してみます。
外国旗の方向性 ― 「なぜやったのか」を問う
刑法92条では、「外国に対して侮辱を加える目的」が必要です。
したがって、外国旗を破損したという外形だけでは92条が成立するとは限りません。事故で破った場合はもちろん、侮辱とは別の目的で処分した場合なども、この「侮辱目的」が問題になります。
また、この罪が刑法の「国交に関する罪」の章に置かれていることも重要です。
つまり単純に、「外国旗という大切な象徴物を保護する」というより、
外国を公的に象徴する国旗・国章を侮辱することによって、
外国との関係を害する行為を処罰する
という性格が強いものです。これは、第2項の「その外国政府が処罰を求めていないのなら、日本側だけで勝手に起訴しない」とも整合します。
日本国旗の方向性 ― 「どのようにやったのか」を問う
対して日本国旗の方は、「日本を侮辱する目的」とは書かれていません。
その代わり、
人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、
公然と国旗を損壊・除去・汚損する
ことを要件としています。そして該当するかは、行為の外形、周囲の状況などの客観的事情を総合的に勘案すると明記されています。
なぜ日本国旗と外国旗で違うのか
両者は、
- 同じ「旗を壊す」という行為を扱い、
- しかも刑罰まで同じ
ですが、何を問題としているのかが違うと捉えられます。
構造としては、
- 外国国章損壊罪
- 外国を侮辱する行為
- → 国交上の問題として処罰
- 日本国旗損壊罪
- 国旗を公然と著しく不快・嫌悪を催させる態様で扱う行為
- → 国旗を大切に思う国民感情を保護するため処罰
と整理できるでしょう。
国旗は特別なのか ― 旗の意味と役割
大切に思う国民感情があり、ときに侮辱する目的で損壊されることもある「国旗」は、なにか特別なものなのでしょうか。
国旗の意味や役割としては、歴史や伝統・共同体意識など色々と思いつくことはあっても、改めて考えてみると意外と難しいものです。
本節では、国旗の意味や役割を考えるため、少し歴史も振り返ってみます。
歴史上の「旗」と「国旗」の位置付け
現在のような「国家を表す国旗」は、共同体における旗の用途の一つでしかありません。
歴史的には、軍事・王権・宗教・都市・職業集団など、それぞれの共同体が旗を持っていました。
| 種類 | 何を表す旗か | 代表例 |
|---|---|---|
| 軍旗・部隊旗 | 軍隊・部隊 | 軍旗、連隊旗、軍団旗 |
| 君主旗・王旗 | 王・皇帝・領主本人 | 王旗、皇帝旗 |
| 家・氏族の旗 | 家門・氏族 | 武家の旗、紋章旗 |
| 宗教旗 | 宗教・宗派・寺社 | 宗教行列の旗、寺社の幟 |
| 都市旗 | 都市共同体 | 中世自由都市など |
| ギルド・職能集団旗 | 商人・職人組合 | 中世ヨーロッパのギルド旗 |
| 船旗 | 船の所属・資格など | 軍艦旗、商船旗 |
| 政治運動の旗 | 思想・革命運動 | 赤旗など |
| 学校・企業・団体旗 | 近代的組織 | 校旗、社旗 |
| 祭礼・地域共同体の旗 | 村落・祭礼集団 | 幟、祭礼旗 |
もちろん国旗そのものの成立史は国によってかなり異なるので、単純な一直線の進化ではありません。
それでも、
「集団を象徴する旗」という古い文化の上に、近代的な国旗も位置している
とは考えられます。
なぜ旗を掲げるのか ― 意味と役割
旗にはおおよそ
- 識別:「私たちは何者か」を示す
- 統合:バラバラの個人を「私たち」にまとめる
- 象徴:共同体そのものを代理する
- 権威:「ここに共同体がある」と宣言する
- 記憶:共同体の歴史や理念が組み込まれる
という複数の機能が重なっていると考えられます。
(※特定の学説の定型分類ではなく、本記事のための分析的整理)
この整理から考えると、共同体にとっての「旗」は、
「目に見えない〈私たち〉を、目に見える形にしたもの」
と捉えられます
この観点から考えると、国旗だけでなく、国歌・国章・制服・徽章・社章・校歌・祭礼・記念碑なども同じ系列に置けます。いずれも「それ自体に実用性があるから存在する」というより、
共同体を象徴化し、人々の間で共有可能にする装置
といえるでしょう。
表現の自由との緊張
国旗損壊罪の議論においては、表現の自由についての論点をよく耳にします。
最後にこの論点を整理しておきましょう。
国旗損壊罪と表現の自由の緊張 ― 論点の構造整理(肯定・否定)
論争の構造をかなり圧縮すると、
| 肯定論 | 否定論 |
|---|---|
| 国旗は共同体の重要な象徴 | 国旗は同時に政治的象徴 |
| それを大切に思う国民感情も保護に値する | 国家の象徴だからこそ批判対象になり得る |
| 思想を禁止せず、特に悪質な行為態様だけ禁止 | 損壊という行為自体が表現になり得る |
| 表現の自由にも一定の行為規制はある | 不快な表現こそ表現の自由による保護が重要 |
| 客観的事情を総合判断するため限定的 | 「著しい不快・嫌悪」は曖昧で萎縮効果がある |
| 外国国章には既に刑罰的保護がある | 外国国章罪とは保護法益・構造が違う |
| 共同体の象徴に最低限の尊重を求める | 国家が象徴への敬意を刑罰で要求すべきでない |
という対立と整理できるでしょう。
- 「国旗損壊を不快・不適切と評価すること」と、
- 「その行為を刑罰によって禁止すること」
は、同じではありません。「社会的に非難される行為のうち、どこまで国家が刑罰を使うべきなのか」が議論されているといえるでしょう。
かつての日本では「敬うべきもの」が法で定められていました。
以下の記事では、不敬の概念を紐解くと共に、不敬罪廃止の歴史を辿ります。
💡関連記事:不敬とは何か ― 法で「敬うべきもの」が定められているのか
施行後の動きと今後
SNSなどでは「損壊した日の丸を掲げる」抗議運動が行われていたりするのは、まさにこの争点を意図的に突いていると考えられます。
現行法自身も、この問題を完全には決着させていません。
法務省も、政治的・芸術的表現としての国旗損壊が構成要件に該当しても、刑法35条の正当行為として違法性が阻却される場合があると説明しています。
(刑法35条)
法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
これは、形式上は犯罪の構成要件に当てはまりそうでも、社会的・法的に正当な行為なら犯罪として処罰しないという考え方です。(例:メスで人体を切る、スポーツの試合で打撃を与えるなど)
ただし、「政治的・芸術的表現であれば当然に正当行為になる」という意味ではありません。具体的な行為について35条が適用されるかは、個別に判断されます。
今後注目される運用・判例
今後実際に重要になるのは、
- どのような政治的・芸術的行為について捜査・起訴され、
- 裁判所が憲法21条(表現の自由)との関係をどう判断するか
でしょう。今後の運用・判例形成を見ないと評価できないところがかなり残っています。
また、日本の法制度に関心のある方には、以下のような記事もおすすめです。
以下の特集記事では、現代社会で議論になることも多い課題に関連した法制度を整理しています。法制度の理解を深めることは、議論されている課題を考える事にも役立ちます。


