就職活動をしている人にとって、就職先を決めることは大変ですが、それと共に就職採用試験での筆記試験や面接試験の対策もまた大変でしょう。特に面接は筆記試験と違って経験する機会が少なく、多くの人はアルバイト採用くらいでしか体験したことがないのではないでしょうか。面接の対策は一朝一夕では難しく、対策本や対策サイトの情報を読み込んで、想定される質問を知ったり礼儀作法を学んだりなど、時間をかけて覚え、準備していくしかないでしょう。
今回の記事では、私がIT企業においてエンジニア職(プログラマーなど)の採用面接などを多く担当していく中で出会った学生や候補者の中で、特に嫌われやすい傾向が強い「専門用語を使いたがる人」についてのお話です。自分の能力を誇示するために、専門的な言葉を使いたがる気持ちは分かるのですが、時と場合によっては「逆効果になることもある」ということをご紹介します。
本当に優秀なエンジニアは相手に合わせる
就職採用試験における面接に限りませんが、「専門用語を使いたがる人」というのはIT業界で働くエンジニアの中にもいます。特に若い人の中に多いですが、中堅クラスのエンジニアの中にもいたりします。エンジニアにとっては日常的に使っている言葉で、特に「専門的」という認識はないのかもしれません。
一定数こういった人たちがいることもあって、エンジニアの人は「コミュニケーションスキルが低い人が多い」と言われることがあります。
会議等に出席している他部署の人や、取引先企業の人にとっては聞きなれない専門的な単語を使用すると、エンジニアにとっては「自分の技術力が凄い」とアピールしたつもりなのかもしれませんが、聞いている人たちは理解が出来ない事があります。そういった人たちの話者への印象は、「専門的で凄い」ではなく、「相手の事を考えられない人」となり、冷ややかな目で見られることになります。
本当に優秀なエンジニア、とりわけ企業や部署間の間を取り持って調整するシステムエンジニアやプロジェクトマネージャーのような役職に付いているような技術者は、「相手に理解してもらう事」を優先して言葉を選びます。これがIT業界のエンジニアに求められる「コミュニケーションスキル」の一つです。
状況に合わせて専門的な用語を知っていても使わず、相手にわかる一般的な単語に置き換えながら会話を組み立てられる人が、多くの人に信頼されて高い報酬を貰えるエンジニアへと成長していくものです。
「虚勢」を張っている残念なエンジニアに見える
最新技術を勉強し、新しい能力をどんどん習得していくことを「楽しい」と感じる生粋のエンジニアのような人がIT業界には多くいます。学生時代などに「オタク」と呼ばれて蔑まれるような経験をしたような人も、その専門分野の中に入れば光り輝くことも多いです。しかし、自分の勉強ばかりに熱中し、他の人との交流が少なかった人などには、それ相応の特徴が会話の中にも見え隠れすることがあります。
「自分の方が優れている」と知識をひけらかすような発言をする人は、相手より優位に立ちたい(マウントを取りたい)という浅はかさが見て取れてとても惨めに見えるものですが、「本人は夢中なのでそのことに気づかない」ということがよくあります。こういったコミュニケーションからは、そのエンジニアの能力が評価されることはなく、逆に「虚勢」を張る残念なエンジニアという評価に繋がることが多いでしょう。
会話で使う単語の専門性で能力を判断されると考えているような人は、IT業界に限らずどの分野においても信頼されにくいものです。一般的ではない英単語を頻繁に使いたがる政治家が、実は有権者に笑いものにされているという状況に似ています。
IT企業への面接では要注意
IT企業へエンジニアとして就職する場合、採用面接試験は非常に重要です。もちろん筆記試験も大事です。筆記試験で一定の点数を獲得できなければ、そもそも面接試験に進むことができない採用試験もあるでしょう。応募者がそれほど多くない中小企業などでは、筆記試験の結果に関わらず、全員面接してみた上で合否を決定するということもありますが、面接無しで合格を決めるような企業は稀でしょう。
「面接では自己アピールが大事」と、多くの就活本やサイトが解説しています。これは絶対に間違いがありません。企業は面接において、その人が「どんな人か」「何が得意な人か」を見極めようとしています。面接の短い時間の中で、自分の能力や経歴など、強みを可能な限りどんどんアピールして印象付けることが最も重要です。
「専門用語を使うこと」は自己アピールにもなります。自分が技術的な分野の勉強をしていることを端的に伝えることができ、その点において他の候補者との違いを明確に示すこともできるでしょう。
大事なのは「相手を見極めること」と「謙虚な姿勢」です。
相手を見極めること
新卒の学生の人には少し難しいことかもしれませんが、会社というのは色々な役割の人で構成されているものです。つまり、IT企業の就職面接であったとしても、あなたの採用試験を担当してくれている人は技術者ではない可能性もあるのです。
一般的には「人事」を担当する人が筆記試験や面接の試験を取りまとめています。実際の試験の説明や案内などを進めているのも、人事に関する部署や担当の人が行っている場合が多いでしょう。面接については企業によって様々ですが、応募者数が多いところでは人事担当の人が一時面接を行う場合もあります。中小企業などでは、二次面接などで直接社長の面接が行われるような企業もあります。
IT企業の面接では、技術的な適性を判断するためにエンジニアが面接を担当することもあります。企業によっては、人事部の人とエンジニアの人のように複数人で面接が行われることもあります。
面接が開始される時には、最初にまず会社側から面接担当する人の自己紹介がされることが多いですが、緊張して聞き逃してしまうこともあるかもしれません。まずは落ち着いて「自分が話をする相手がどういった人なのか」をしっかり把握しましょう。
面接をする相手によって、その面接で得ようとする情報の方向性が異なっています。企業にもよりますが、大筋以下のような方向性ですので、面接を受ける前にある程度頭に入れておきましょう。
面接担当 | 質問の方向性 |
---|---|
人事 | 社会人適性 (礼儀作法、常識) |
技術 | 現在の技術力、技術分野への適性 |
社長・役員 | 会社全体へ与える利益、人材の将来性 |
この中で、専門用語を理解してもらえ、評価される可能性があるのは「技術」分野の人だけであることに注意しなければなりません。それ以外の人に対して、一般的でない専門用語を話したところで、「コミュニケーション能力の欠如」として減点されるだけでしょう。
また、技術分野の人に対して専門用語を使う場合にも注意が必要です。
相手はその筋のプロです。自信満々に誤った使い方をしてしまった場合、面接官に笑われて恥をかくのは貴方です。私も面接の最中に笑いをこらえるのに必死だったこともあります。間違うことは誰にでもあるものですが、間違ったことを認めずそれでも自分の能力を高いとアピールし続けるのは、さすがに無理があります。その業界向けのコントか何かなのかと思ってしまえるほどに笑えてしまうので、面接のような厳粛な場では是非やめていただきたいものです。
そういった場合は、素直に自分の認識や理解が誤っていたことを間違いとして認め、逆に面接で指摘して(教育して)貰ったことに感謝を述べるくらいの対応ができれば最高です。その場で直ぐに悪い印象を払拭することができて、逆に「素直で向上心がある」という良い評価に転じさせる事ができるでしょう。
謙虚な姿勢
IT業界に限りませんが、社会生活を営む上で「謙虚な姿勢」というのは大事です。自分に能力がある事をアピールする必要がある面接という場面においても、自分の能力を過大評価して増長するべきではありません。
就職採用試験における面接では、短い時間の中で自分の得意な分野や習得済みの能力を伝える必要があるのですが、変な専門用語を使うのではなく、誇張せず事実を分かりやすく説明しましょう。
IT企業で働くエンジニアは、いわゆる「プロ」です。プロ野球選手に向かって野球でマウントを取ろうとする人は少ないでしょう。それはIT業界でも同じことです。ビジネスシーンにおいても、自分よりエキスパートの人や上司に向かってウンチクを語ってマウントを取ろうとすることは、恥ずかしい行為として話題になることがあります。
相手が自分よりも優れたプロであると思っていれば、自然と使う言葉も謙虚なものとなることでしょう。逆に、相手が自分よりも劣等な存在という認識でいると、自然と傲慢で無遠慮な言葉遣いになるため、言葉選び一つで「どういった人間なのか」というのが透けて見えるのです。面接を担当している人たちは、そういった事を「見抜く力が会社に認められている人たち」であることを忘れてはなりません。
将来優れたエンジニアになる事を望んでいるのであれば、「何事も謙虚に自分の経験として取り込もう」という姿勢を身につけましょう。
相手に理解してもらう事が最重要
相手とのコミュニケーションにおいて、専門的な言葉は重要ではありません。
エンジニアとして日常的に専門的な事に触れていると、専門的な事が普通の事となってしまい、つい口から出てしまいそうになることはあります。もちろんそれが、同じ部署の仲間だったり価値観を共有している相手であれば、問題ありません。当たり前ですが、プログラム内部の話をしている時には、抽象的な言葉ではなくプログラム内部の専門用語で伝えた方が正確に伝わるでしょう。これは、その相手には専門用語で会話をしても「理解してもらえる」ので、コミュニケーションとして成り立っているのです。
しかし、エンジニアのコミュニケーションの相手は、同じ部署の仲間に限りません。
特に、プロジェクト全体の会議の場合ではプログラム開発に関わる人は「その部門の代表者1名だけ」だったり、受託開発の仕様打ち合わせなどでも、担当SE(システムエンジニア)1名と営業1名のような場面は多いです。つまりそういった場においては、その場にいる人の中で、専門用語を理解できる人というのは自分しかいないという事です。
そういった場において、エンジニアが専門用語で話をしてしまうと、参加者全員が「この人何を言ってるの」という怪訝そうな視線を送ってくることでしょう。そういった失敗をして自分の行動を顧みるようになる人もいますが、できれば恥ずかしい思いはしたくないものです。
自分の言葉に耳を傾けている人が理解できるように、技術的・専門的な内容をかみ砕いて、分かりやすいように説明をするというのは、エンジニアに求められる能力の一つです。専門的な内容に限らず、話す内容が相手に伝わるように、適切な言葉を選んで会話することができるかどうかは、採用試験の面接の場面でも注視されています。話が上手な人と会話をしたり、相手がいない人は動画などをみて学ぶなどでも構いませんので、本番に挑む前に可能な限りトレーニングを積むと良いかもしれません。
ただ、話す能力(コミュニケーション能力)の基本は「相手への配慮」であって、聞いてくれている相手の立場になって考えて話せば、特別なトレーニングを積まなくても、自然と適切な言葉選びも出来るようになっていくものです。
コミュニケーションスキルとして気を付けよう
IT企業に限りませんが、面接ではコミュニケーションスキルは一つの重要な採用判断材料です。
コミュニケーションスキルという言葉はよく聞くけれど、抽象的すぎて何を気を付ければよいのか、何を習得しておけばよいのかが分かりにくいかもしれません。採用する企業としても、特別な能力を期待しているのではなく、最低限「普通に」会話や意思疎通ができることを期待しています。
しかし、この「普通」というのが曲者で、学生生活における「普通」と社会生活における「普通」には、違うところもあるものです。社会生活の中における会話では、敬語を含めた礼儀作法や態度、相手の立場や経験を踏まえた話の運び方など、相手への配慮が欠かせません。
「専門用語を使いたがる人」は、この配慮が欠けている人の代表的な特徴でもあり、IT企業の採用試験に限らず、業界全体で嫌われやすいでしょう。相手に合わせて会話することが出来ない「コミュニケーション能力が低い人」と評価されてしまうことがないように、相手の事を考えながら適切な言葉を選んで会話をすることを心がけましょう。
最後に一つだけ参考のために紹介しておきます。
相手が分からない想定で専門用語を使うこともあります。一般的には「煙に巻く」といって、相手にこちらの内情を悟られないようにするための手法の一つで、何か後ろめたい事情がある場合などに使われる手です。これは、採用試験の自己アピールとは全く逆の性質を持つものですので、注意しましょう。
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