「103万の壁」引き上げ反対を「国民の生命より税収が大事」という宣言に感じる理由

103万円の壁 戯言

2024年の衆議院総選挙が行われて以降、政治のニュースが大変多く報じられるようになりました。それらの多くが政局の話題ではなく、具体的な政策についての議論が中心となっていることは、一人の国民としては喜ばしく感じます。

今回はそんな政治のニュースの中で頻繁に取り上げられている「103万円の壁」に関する話題を扱ってみます。執筆している私自身は政治家でもなく法律家でもありませんが、決められたルール(法令)を先入観無しで客観的に読み解いてみたところ、今のところ「引き上げが必要」という考えに至っています。逆に、反対している人は「基礎控除」の意味を知らないか、「国民の生命を軽んじている」としか思えなくなっています。

103万円の壁という「分かりやすい表現」で議論されていますが、根底にある「基礎控除」がどういった制度なのかを改めてまとめながら確認することで、反対することが「とんでもないこと」であることを再確認していきます。

基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)

議論されている「103万の壁」とは一体何なのか、もう一度確認しておきましょう。

アルバイトやパートなどで103万円以上の所得を得ると、「所得税の課税対象」となります。また、これに伴って親や配偶者の扶養から外れてしまい、世帯内全体で支払う税金が増えることになってしまいます。その対策として現実的な社会では、10~12月頃には計算して「超えないようにシフトを調整する」ということが行われています。

私自身は一般のIT企業勤めで「パートを雇用している側」の立場でしたが、「103万円の壁の考慮の必要有無」は人材配置の際にも検討する項目の一つでした。分かりやすい例を挙げると、年末頃にかけて山場を迎えるプロジェクトに、103万円の壁の考慮が必要な人員を配置すると、パートやバイトがシフトに入れず人員不足となってしまう可能性があるため、そういった人員をあらかじめプロジェクト計画から除外したり補充人員を配置するといった対策を取る必要がありました。当時は「個人の税金対策」として受け止めており、税制に対する不満は感じず、日常業務として対処していました。パートの人は不満があったようですが「仕方ない」という諦めが大きかったように思います。

103万円の壁というのは、実際には48万円の基礎控除55万円の給与所得控除という内訳になっています。

項目控除額
基礎控除48万円
給与所得控除55万円
合計103万円

給与所得控除はいわゆる労働する上での経費のような扱いで、所得によって変動するものです。国民民主党は「基礎控除等を引き上げ」することを政策として掲げていますので、以下に少し詳しく基礎控除がどういうものなのかを確認していってみます。

基礎控除の目的

働いて収入(所得)を得ると所得税を支払う必要がありますが、所得税には「所得控除」という制度があります。以下は国税庁のホームページからの引用です。

所得税法では所得控除の制度を設けています。

これは、所得税額を計算するうえで、社会政策上の要請によるもの、各納税者の個人的事情への考慮や最低生活費を保障するためのものなど、税負担面での調整を行う趣旨から設けられているものです。

出典 : No.1100 所得控除のあらまし

引用の中で大事だと思われる部分を強調装飾してみましたが、要するに「最低限生活するために必要なお金には課税しない」という目的で設けられているのが所得控除ということです。所得控除には以下の種類があります。(同国税庁のページより引用)

雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、 地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除

得られた収入で、自分以外の配偶者や子供を養う必要がある場合は当然「最低生活費」も増えるため、それぞれに応じた控除が設けられています。その中の「基礎控除」は、「一人の人間が生きるのに必要な最低金額」として、所得を得た場合に必ず適用される基本的な控除です。

基礎控除を引き上げて178万円へ

国民民主党は「103万円の壁を178万円に引き上げ」をすることを主張しています。

国民民主党の減税政策2024

出典 : 国民民主党の政策2024 | 新・国民民主党 – つくろう、新しい答え。

上記画像内では「基礎控除等」と記載されているため、基礎控除だけでなくもしかしたら他の控除(給与所得控除)を含める可能性も視野に入れているのかもしれませんが、103万円から178万円へ75万円分控除を拡大する方針には間違いないでしょう。仮に基礎控除額が75万円拡大するとなると、以下のような計算になります。

項目現状国民民主党案
基礎控除48万円123万円 (+75万円)
給与所得控除55万円55万円
合計103万円178万円

この基礎控除の引き上げによって、パートやアルバイトさんたちの「働き控え」を解消するだけでなく、103万円以上稼いでいる人も「課税対象となる所得が減少」する効果があるため、ほぼ全ての「働いている人」に効果がある減税となります。

個人的には、個人事業主やこれから起業しようと考えている人にも大きな影響があると感じています。個人の事業での収入の場合、上記48万円の基礎控除額を超えると「所得税の課税対象」となります。しかし、この引き上げが成されたら、事業の収益が123万円までは非課税ということになります。私を含め、これから新しい事業を始めようと考えている人たちを後押しする効果も期待できそうです。

「基礎控除引き上げ反対」が意味する事

この「103万円の壁」の話題については、報道などでは「パート・アルバイトの働き控えの解消」が論点となっていることが多いですが、個人的にはもっと大事なことがあると思っています。

先に国税庁のページを引用した通り、「基礎控除は人が最低限生きるため」に必要な所得を保障するためのものです。

基礎控除の金額で最低限生きる事ができなければならないのが大前提です。つまり、現代の日本において「1年間48万円で生存する」ことができなければならないのです。

反対することが何を意味するのか、気づいた方もいるかもしれませんが、もう少し具体的に掘り下げて考えてみることにします。

月4万円で生きられますか?

年間48万円ということは、月に換算すると48万円(年) ÷ 12か月 = 4万円(月)となります。家賃や光熱費、食費などを合わせて4万円で生きることが可能でしょうか。少し計算してみましょう。

私は地方都市の賃貸マンション住まいで、病気で死にかけて以降は可能な限りの「持続的な節約生活」の追求を楽しみにしています。そんな私の今の生活費の構成は以下のような状況です。

項目金額 (万円)
家賃3.5
食費2.0
光熱費1.0
通信費1.5
その他雑費3.0
合計11.0

まだまだ圧縮できる部分があることは事実ですが、闘病しながらできる持続性のある節約としては、結構現実的なところで安定していると感じています。その他雑費には医療費とか生活必需品などの他、自炊できない体調の時に食べる非常食(冷凍食品のような割高な食事代)の予備費も含んでいます。

月4万円で生活するとなると、上記中から「生存に関係しないところ」を削るしかないでしょう。

食費は既に「一日2食でほぼ炭水化物だけ」の生活で、1日600円(1食300円)程度の計算です。これ以上を削るとなると少量のタンパク質(生卵など)をゼロにするくらいしかなくなってきます。タンパク質摂取は高額なので、おそらく30~40%くらいは圧縮できそうな気がします。

日によって献立も変わるし多少の金額の変化もありますが、一食300円の生活は概ね以下のような感じです。生存だけを考えると200円くらいまでは圧縮できそうです。何も具材のない白米と水道水を飲む生活なら100円も切ることもできるかもしれませんが、病気をせず生き続けるのは簡単ではないでしょう。

食材費金額
袋ラーメン130円
生卵20円
焼きウインナー 2本60円
飲み物80円
合計290円

また自宅にある水道・ガスを使えていることでこの金額に抑えることができています。家賃・食費・光熱費を足すと、それだけで6.5万円必要な計算です。私の場合4万円での生活となると、医療費と食費を残してホームレス生活が現実的な落としどころでしょうか。家がなくても医療保険って受けられるのでしょうか…。

結論から言って、4万円では生存することは困難な現状にあり、これは「最低生活費を保障しない」税制度になっていると言えるでしょう。

基礎控除の引き上げは「人が最低限生きる」レベルの引き上げ

国民民主党の基礎控除の引き上げを、「人が生存する」という観点で考えてみます。

48万円の基礎控除を123万円へ引き上げると、生活費としてはどうなるのでしょうか。以下に比較してみます。

項目引き上げ前 (万円)引き上げ後 (万円)
基礎控除 (最低生活費) – 年額48123
基礎控除 (最低生活費) – 月額410.25

月4万円しかなかった生活費が、月10.25万円(10万2千5百円)という生活費になっています。私の生活費に当てはめて考えてみると、少し雑費を抑える必要はありそうですが、何とか最低限生存ができる金額になっていそうです。

国民民主党の178万円の根拠は、最低賃金の上昇率からの算出ということのようですが、現実的な生活費としても「妥当」な金額設定になっているように感じます。

もちろんプロ節約家の人たちの場合は、もっと田舎の方に住んだり、食材を自分で育てたりなど、様々な工夫をされているのではないかと思います。私の場合、闘病のために病院の近くに住む必要があったため引っ越ししたほどで、ここでは自給自足生活は困難な状況です。人によって多少の違いは有れど、概ね万人が生存できるであろう金額なのではないかという意味で「妥当」という表現を使っています。少なくとも月4万円よりは現実的です。

「国民の生命よりも税収が大事」という宣言

前項までで、以下を確認してきました。

  • 基礎控除(48万円)は最低生活費の保障
  • 年48万円は月換算では4万円
  • 月4万円での生存は現状困難

ここまで確認すると、「103万円の引き上げに反対」している意見には違和感しかありません。

「103万円の引き上げに反対」という曖昧な表現ではなく、もう「国民の生命よりも税収が大事」と直接的な表現に言い換えたらよいのではないでしょうか。こんな表現をしたら、「大変な人権侵害」として国内外で大きな問題になるかもしれません。

この言い換えは、「控除の目的」を考えれば決して大きな誇張などではないでしょう。

報道番組などでコメンテーターの人などが軽々しく「103万円の壁の引き上げには反対」と言っているように見えますが、個人的にこの発言は憲法25条(生存権)を脅かすとても危険なものだと感じます。私には、ドラマや映画で出てくる「死ぬまで働かせる独裁者」の台詞のようにも聞こえます。

「生存権」について、少しまとめておきましょう。(出典 : Wikipedia – 生存権)

国際人権規約(A規約)第11条
第1項
この規約の締約国は、自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利を認める。締約国は、この権利の実現を確保するために適当な措置をとり、このためには、自由な合意に基づく国際協力が極めて重要であることを認める。

日本国憲法第25条
第1項
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第2項
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

今回引き上げする基礎控除はこういった生存権のためのものでもあり、国税庁の言葉を借りると「最低生活費を保障するため」に設けられています。

つまりこれに反対するということは、2024年現在は既に年48万円で生きられる時代ではないことを鑑みると、「国民は死んでもいい」という意味と捉えられても仕方がないでしょう。

粛々とやるべき

反対している人の多くは「財源」の話を持ち出します。

しかし、人が生きられないのであれば、道路も必要ないし美術館とかの公共施設も必要ないし、ほぼ全ての事をする必要がないのです。人の生命を守ることが最優先であるべきです。

食べていくお金がギリギリなのであれば、空調を買うことも十分な防犯対策もできないのは「仕方がない」ことです。それらを買って「死んでしまったら意味がない」からです。財源論はそういう意味では「意味を成していない」し、「理由にもなっていない」のです。

「国民の生命を守るため」に税収が少なくなるのは仕方がないでしょう。国民の生命より優先度の低い支出を抑える以外に道があるとは思えません。

基礎控除の引き上げについての議論は、分かりやすい「働き控え」の議論ではなく、「国民の生存権を守る」議論でもあるべきです。税収減など様々な影響があって大変な部分もあるかもしれませんが、国民の命を守るためにも粛々と進めるべきでしょう。その上で、減った税収で諦めなければならない行政サービスがあるのであれば、「国民の理解を得る」ように説明すれば済むだけです。既に国民からも「削減案」が飛び交っているので参考にしたらいいのではないかと思います。

優先順位から考えても、少なくとも今回の基礎控除引き上げ案に反対することは、「人として」あってはならないでしょう。まずは国民の最低限の生活を保障し、その上で税収減の対策を行う、これが本来の筋道だと思うのです。

私たちに出来る事

103万円の壁についての協議は進められていますが、最終的にどのような結果になるのかはまだ分かりません。国民民主党の玉木代表は、年内に何らかの結果を出したいと考えているようで、SNSなどには期待や応援の声も多くあがっています。

しかし、減税策は「国民の支持を得られる」政策です。究極的に言えば「税金を廃止する」とすれば国民は喜びますが、残念ながらその国家は長続きしないでしょう。なので私たちは冷静に「是非」を考えなければなりません。日本は紛れもなく国民主権の国なのです。

基礎控除の引き上げは、今回まとめてきたように「人が最低限生きるための必要な金額の引き上げ」と言える内容の減税です。30年間据え置かれている金額の見直しでもあり、金額設定も妥当なレベルと言えるでしょう。「働き控えが緩和」され、ほとんどの国民の「手取りが増える」ことにもなりますが、これは副次的な効果です。生きていくことが出来ない程に取り立てられていたのを、最低生きる程度は残してくれるようにするという、人道的な変更です。

今回まとめている通り、この人道的な政策に反対している人は非人道的であって普通ではないことが分かります。納税者(国民)の命よりも大切なものが有ると宣言していることと同じだからです。

もし選挙で選ばれている人がこのような事を言っているのであれば、私たち国民は絶対に許してはならないでしょう。選挙で選ばれてもいない反対勢力である「財務省」に対して批判の声が上がり続けていることは、当然の事と言えるでしょう。命を奪われるところまで追い込まれた国民が選挙以外にどのような行動を取ったのか、まだまだ歴史を学ぶ必要がありそうです。

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