Zを日本ではゼットと読む理由 – 由来と歴史

Zを日本ではゼットと読む理由 雑学

日頃何気なく使っている言葉ですが、ふとした瞬間に「あれっ?」と不思議に思う事と出会ったりします。特に、日本語の中にある外来語や外国語の読み方などが、現地の言葉と違う読み方で広まっているものなどが多いため、最近はそういった言葉や単語が気になったりします。

今日お話しするのは、アルファベットのZ(ゼット)についてです。このアルファベットは、普通の英語話者はゼットとは発音することがないため、英語のコンテンツばかりを視聴していると、日本語のゼットという響きに違和感を感じるようになりました。そもそも何故日本ではゼットと読むようになったのか、その由来についても見ていきましょう。

Zの発音はアメリカとイギリスで違う

日本でゼットと読むアルファベットのZは、英語ネイティブのアメリカとイギリスで読み方が異なります。

発音記号読み
アメリカ/zi:/ズィー
イギリス/zed/ゼッド
アメリカ・イギリスにおけるZの発音の違い

私たち日本人になじみの深いアメリカ英語ではzi:(ズィー)と発音します。英語の授業などで教わる「ABCの歌」でも、XYZの部分はエックス・ワイ・ズィ―と習ったのではないかと思います。

一方、英語の本場イギリスでは、zed(ゼッド)と発音します。これは日本ではあまり聞く機会がないかもしれません。そもそもアルファベットをそのまま読み上げるという状況は、映画やドラマ、Youtubeの動画なんかでもなかなか目にする機会はないものです。

しかし、日本語でのZの読み方は、ゼッドのように濁らず、綺麗にゼットと発音します。イギリス英語が由来しているわけではなさそうです。

日本のゼット読みはオランダ由来か

アルファベットの読み方は、国や地方・言語によって異なります。Wikipediaにまとめられている情報を一部抜粋して紹介します。

言語発音読み
ドイツ語/tsɛt/ツェット
イタリア語/dzɛːta/, /tsɛːta/ツェータ
フランス語/zɛd/ゼッド
スペイン語/θeta/セタ
オランダ語/zɛt/ゼット
ポルトガル語/zeː/ゼ―
各国のZの読み方

上記表にもある通り、オランダ語ではアルファベットのZの事をゼットと発音します。同様にゼットと発音する言語としては、ポーランド語・チェコ語・スロバキア語などがあるようです。この国々の中で日本と縁が深い国と言えばオランダなので、一般的にはオランダの発音が日本に定着したとされることが多いようです。

イギリスの国名も、日本ではイギリスと呼びますが、これはポルトガル語でのイングリスが基になっていると言われていますが、ポルトガル語でのZの発音はゼ―となっています。昔の人も、海外の文化や言語を取り入れる時に、何かルールとか決めて欲しかったものです。

陸続きでお隣の国であったとしても、その国の言語に取り込まれた際に違う音になってしまうことが普通に起こっているのが、とても興味深い現象だと思います。イギリスの海向かいの国フランスが、イギリスと同じゼッド読みなところをみると、やはり近いと同じ音で伝わりやすいのかとも思われます。

この疑問を抱いたときに、最初は「またラテン語」かなと思ったのですが、どうやらラテン語ではzeta(ゼータ)と発音するようで、今回のゼットの由来ではなさそうです。ラテン語は特にヨーロッパや南米周辺の文化や言語の大きな影響を与えていて、度々疑問の終着点がラテン語ということが起こります。ゲームに登場する鳥の名前がラテン語由来だと気づいた以下の例も是非見てみてください。

オランダという国名も日本独自

上記ではイギリスの国名について少し触れましたが、ゼットの発音を伝えてくれたオランダという国も、日本では特殊な国名で呼ぶことで知られています。オランダと呼ぶ国は、世界的にはNetherlands(ネザーランズ)が正式名称で、彼の国をオランダと呼ぶ国は現在日本だけとなっています。

これは第二次世界大戦後にオランダが「私たちはHolland(オランダ)ではなくNetherlands(ネザーランズ)です」とし、オランダという国は占領下で付けられた差別的な国名なので使わないようにと通達を出していることに起因しています。

オランダと日本

その中で、古くから交友関係が深い日本だけは、昔ながらの呼び方である「オランダ」という国名の使用が例外的に認められている唯一の国となっています。個人的には世界と協調路線で、一緒にネザーランズに国名を改めて欲しかったと思うばかりです。海外のニュースなどを観た際に国名が表示されると、脳内でNetherlands=>オランダと変換しなければならないし、英語話者にはオランダと言っても伝わらないので、日本語のオランダと英語のNetherlandsの両方を覚えなければならないからです。

日本語固有の読み方を新たに生み出すことは、言語に対する脳のリソース負荷が高くなるだけなので、明治には日本語廃止論とかいう暴論が生み出されるまでになったほどです。日本語廃止論まではいかないにしても、無駄な定義や言葉はできるだけ生み出さないように工夫したいものです。

日本とオランダの長い歴史

江戸時代、日本は一部の外国とだけ交流をしていました。私たちの世代では義務教育過程で鎖国と習ったものです。そんな中で、オランダはヨーロッパの国で唯一の貿易相手国でした。そのため、江戸時代に日本に入ってきた学問の多くはオランダ由来で、蘭学(らんがく)と呼ばれていました。義務教育過程で解体新書・杉田玄白などと覚えさせられた人も多いのではないでしょうか。解体新書のように特に医学分野では、昭和期ころまではカルテもオランダ語で書くことがある程に、日本の文化の根底にオランダ由来の学問が深く根付いていました。

蘭学・解体新書

江戸時代に長く交流のあったオランダと日本ですが、大東亜戦争(アジア太平洋戦争)が勃発したことで、戦争状態に突入してしまいます。特に、オランダ領であったインドネシアには、パレンバン油田という石油がとれる軍事的に重要な拠点があったため、日本はまずはオランダ領インドネシアを目指して南下していくことになりました。

オランダはインドネシアにて日本軍に敗退して退却していましたが、第二次世界大戦後に再度インドネシアを植民地化しようと再来したものの、現地の人と残っていた日本人が協力して撃退したことで、今のインドネシアの独立が成し遂げられたことは有名です。

オランダと日本は、地球の裏表と言っていいくらい遠い国ではありますが、特に江戸から近代にかけて非常に密接に繋がりがある国で、その過程でアルファベットの読み方を含めて様々な文化が日本にもたらされているようです。

日本語に潜む謎の言葉たち

日本語には、平仮名・カタカナ・漢字と3種類の文字システムがあり、その中でも特にカタカナには謎の言葉が多くあるように思います。外来語やカタカナ語と呼ばれることがある、海外の言語由来のその言葉たちは、本当に「何語?」と言いたくなるような単語が多く見受けられます。

最近は、インターネットを通じて海外のコンテンツと触れ合う機会が増えていることが原因なのか、特に若年層から不思議な言葉が生み出されることが多くなっているようにも思います。e-Sports界隈でのワースという言葉についても、元の英単語を知っていたら、そんなカタカナ語を生み出そうとは思わない灯ってしまうのです。

海外の言葉を音で柔軟に取り込んでしまう日本語は、日々複雑さを増していくばかりではありますが、豊かな一人称や相手によって表現を変えることで敬意を表す表現が豊富だったりと、魅力も多い言語です。特に海外の言語を学べば学ぶほどに、日本語という言後の奥深さを知ることになり、またこの複雑な言語を扱えていることが誇らしくもあります。

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