IT企業の採用試験の応募では、「作品」の提出が求められる場合が比較的多くあります。作品提出は、応募してきた人の技術的な力量を推し量ることを目的として、企業側が提出を求めている場合がほとんどです。新卒採用の場合には、提出にあたっての所作・形式などによって社会人適性を判断されることも多く、中途の場合には即戦力となる人材かどうかを見極めるためにも利用されます。
今回は、IT企業の採用試験で求められることが多い「作品提出」において、プログラマ志望の場合にはどのようなものを提出すればよいのかについて、採用側の着眼点や反応と合わせて、提出する作品のパターンにおける簡単なアドバイスも紹介しています。当然採用する側の企業によって様々な見解がありますので、一つの事例として参考にしてみてください。
作品提出は面接外での貴重な「自己アピール」
採用試験での作品提出が必須ではなく任意となっている企業もありますが、作品提出は任意であっても可能な限り何かを提出するようにしましょう。
通常、採用試験の中で個人の自己アピールができるのは面接だけである場合がほとんどですが、作品提出は面接以外の時間で、事前に準備して自己アピールすることができる絶好のチャンスでもあり、採用試験の中では特に貴重な機会と言えるでしょう。他の応募者よりも自分が優れていることを企業にアピールすることができれば、合格の可能性を高めることができますので、しっかりと有効活用しましょう。
貴重な自己アピールチャンスをできるだけ効果的に活かすためにも、提出する作品には気を使いたいところです。他の企業の採用試験に忙しかったり、学校の授業などの日々の活動の関係などで、時間を割くことが難しいこともあるでしょう。企業側も、改めて作品提出のために何かを制作して欲しいと考えているのではなく、これまでに制作した作品を見せて欲しいと望んでいるに過ぎません。基本的には自分が過去に制作したプログラムを提出しましょう。
提出する作品の種類によって、企業側に与える印象も異なってきます。いくつか代表的な作品のパターンに分けて、それぞれ紹介していきます。
学校の授業や課題
新卒採用の場合の提出作品で多いのが、「学校の授業で製作」したプログラムです。同じ学校の学生が複数受験している場合、提出作品の内容が重複する可能性があります。
採用する企業側としては、学生が学校の授業で製作したプログラムを提出してきた場合、多くの場合その人に対する技術面での興味や関心を損ないます。学校の先生が指示する通りに制作したプログラムには、何のこだわりも意志も、技術的な努力も込められておらず、「見る価値がほとんどない」ためです。作品提出が求められているので、その条件をクリアするためだけに提出した作品として、もしかしたら作品自体を見てもらえない可能性も十分にあり得ます。
作品提出で自己アピールをするという観点から言うと、学校の授業で製作したプログラムを提出することはお勧めしません。
授業のプログラムを提出する場合の心構え
それでも時間的な制約などもあって、やむなく授業で作ったプログラムを提出するしかないという場合もあるでしょう。そういった場合には、しっかりと以下のような事を考えてから面接に臨むと良いでしょう。
- 何故学校の授業のプログラムを提出したか
- 授業のプログラムに関する思いや感想
これらは特に、技術者による面接の場合に聞かれることが多い質問です。
何故学校の授業のプログラムを提出したか
1.の質問については、時間がなくてそれしか準備できなかったのであれば、素直にそれを伝えるだけでも構いません。企業側も授業のプログラムを提出してきた段階で、個人的に技術的な自己投資をしてきたような人材でないことは百も承知です。ただ、技術投資する時間もない程、何かに時間を取られてきたのであれば、その時間に何をして過ごしてきたのかを知りたいのです。学校に通っている期間というのは、社会人からすると自己投資する時間が充分にある期間なので、その期間をどのように使ったかを知ることで、企業側は人材の適性や本気度を測ります。
正解はありませんが、例えばバイトやサークル活動が忙しかったと回答した場合を考えてみましょう。どちらも学生の間にしか体験することが出来ない貴重な活動でもあります。本気でそれらに取り組んだことをアピールできれば、「技術的な部分以外で」興味を引くことができるでしょう。面接の担当者が技術オタクであった場合はこの手が通用しない場合もありますが、一般的な社会人経験のある普通のエンジニアが担当者であった場合は、理解してもらえるはずです。
授業のプログラムに関する思いや感想
2.の質問は、学校の授業で製作したプログラムであっても、少しでも技術的な適性を判断する材料を得ようとしてされることが多い質問です。そもそも作品提出は、その人の技術力などを知るためのものなので、その点に関する評価を何かしら得る必要があるのです。先生に言われたとおりに作っているだけのものなので、そこには技術的な苦労や思い入れがあるとは質問者も思っていません。
作ったときの事を考えながら、素直な感想を述べましょう。作っている時に楽しくてプログラマーになりたいと思ったというような定番の答えでも構いません。ただし、当然「どのあたりが楽しかったのか」という質問にも回答する心構えは必要です。嘘で楽しかったと発言すると、百戦錬磨の面接官には必ずばれます。思いも感想もなく、作ったことさえ忘れているようなものであれば、その旨正直に告白するしかないでしょう。その場合は、「本当はプログラム作るの好きじゃないですよね」と聞かれた場合の回答も準備しておかなければなりません。
自己アピールに効果的な対策
面接官の興味を引きたいのであれば、提出する作品までは準備することが出来ていないけれども、「○○の分野に興味があって勉強中」です、といったような回答は好意的に受け止められる可能性が高いです。
その場合は、○○について少し踏み込んだ質問がされる場合もありますが、背伸びせず、自分の勉強している範囲で回答しましょう。分からないことに対してどのような反応をするかは、技術者適性として貴重な情報源にされます。見栄を張って知ったかぶりをするような人は、技術者だけでなく、他の分野の人からも敬遠されるため、自分の興味関心がある得意分野であったとしても、謙虚で素直な対応を心がけましょう。
大学の卒業研究
学校の授業で製作したものに近いですが、大学の卒業研究の課題で製作したプログラムを提出するのも一つの手です。研究室の規模などにもよりますが、提出物の内容は他の人と重複することは殆どなく、内容は特定分野に専門的になる傾向があります。
学校の授業の作品とは違って、一定の期間集中して研究した内容となるため、面接で触れられる場合には意外と話が弾むことも多いです。面接官も、日常で扱うソフトウェアと異なる作品が提出されてくると、それはどういった物なのか興味が湧いてくるものです。
この提出方法を選んだ場合は、しっかりと本気で卒業研究に取り組んでおく必要があります。面接での質問は、プログラム作品の中身だけでなく、研究の目的など周辺の事情にまで及ぶ可能性が高いです。自信をもって回答できるように、研究のテーマについて真剣に考えておきましょう。研究室の先生と行った議論や、過去の研究結果などを引用しながら、テーマについて知らない面接官に対して「研究の意義」を力説することができるくらいだと拍手喝采でしょう。
余談ではありますが、(もう20年くらい前の話ですが)私がIT企業を受けた際にも、提出作品は卒業研究で作成したプログラムを提出しました。個人で様々なプログラムも作ってはいましたが、受験当時の最新のプログラムが卒業研究で、自分の中で最も技術的に新しい知識を盛り込んだものだったためです。内容は画像の認識に関係したものではあったものの、どちらかというと学術的な要素が強いものでしたが、比較的興味を持ってもらえたように思います。
授業の作品とは違って、卒業研究のプログラムの場合は、「何故その環境を選んだのか」といった点も面接で問われる可能性があります。
その質問には、沢山あるプログラムの制作環境の中から、その環境を選んだ理由を知ることで、問題解決に対するアプローチや考え方を知ろうという意図が込められてます。ずっとその環境しか勉強してこなかったとか、所持している制作環境がそれしかなかったという回答でも問題ありません。ありのままを回答しましょう。もちろん、自分のこだわりがあって語りたいのであれば、しっかりと自己アピールしていきましょう。自分の意見を述べた後、逆に企業側に対して質問してみるのも、企業やプロの仕事の内容に真剣に興味がある事を示すことができて効果的な場合があります。
個人の研究や活動
学生時代から様々な活動をしている強力な応募者などが、稀にすごい作品をもってきます。そういった応募者は、企業の採用関係者以外にまで噂になったりします。
個人や複数人で製作したゲームなど、他の応募者とは一線を画す作品を提出すると、企業側の度肝を抜くこと間違いなしです。採用判断においてアドバンテージを得ることが出来て、筆記試験や面接で大きな失敗をしなければ、合格の可能性をかなり高めることができるでしょう。
新卒採用の場合は、個人製作の特殊な作品の提出はそれほど数が多いわけではないため、企業側にとっても記憶に残りやすく、採用活動が終わった後も長い期間印象に残ります。落ちものパズルとか、シューティングゲームのような凝った作品を提出された場合は、あまりにもインパクトが強すぎて、採用後十数年経っても忘れられない程に記憶に刻み込まれます。そういった作品を提出してきた人と面接で直接お話しをすると、明らかに他の人とは違う「エンジニアオーラ」があふれ出ているものです。
私の経験している限りでは、こういった異色の作品を提出してきた候補者の中では、不合格となった人は記憶にありません。もちろん、企業側が内定を出したとしても必ず入社してもらえるわけではないため、その全員と共に仕事をすることができたわけではありませんが、入社した人がその後も凄い活躍をしていたことは言うまでもありません。
ITエンジニアやプログラマーになりたいと本気で考えている人は、自然と日々の活動にその熱意が反映されているものです。プログラマーだけでなく、ITに関連している物なら何でも知りたいという知的探求心の塊のような人も世の中にはいるものです。自分がそういう種類の人材だと思うのであれば、自信をもってアピールしていきましょう。逆に、自分はそこまでじゃないと思うのであれば、そういった人たちに負けない自分の長所を考えて、しっかりアピールしていく内容を考えておきましょう。
こだわりが強すぎるて、いわゆるオタクの早口のような話し方になってしまうと、相手に効果的に伝えることができないこともあって逆にマイナス評価されてしまう危険性もあるので、自信をもって落ち着いて話すことを忘れないようにしましょう。また、天狗にならず、謙虚な姿勢は大事です。
まとめ
最後に、今回紹介した作品と、その作品を提出した場合の効果について、簡単な表にまとめておきます。
提出作品 | 効果や対策 |
---|---|
学校の授業 | 技術者適性の加点はほぼ見込めない。その他の活動アピールでしっかり補填を。 |
卒業研究 | 専門性に活路を見出す。本気度が非常に重要。 |
個人の研究や活動 | 非常に強力な自己アピール。落ち着いて謙虚に。 |
作品提出は、日々趣味でプログラムを作っているような人でないと、就職活動の中では頭の痛い面倒なことかもしれません。提出が任意となっている企業や、提出が必要のない企業の中から受ける企業を選んでしまいたくなるかもしれません。今回紹介した中では、学校の授業で作成したプログラムは評価が高くないようなことを述べていますが、それは技術面に関してのみ言える事です。試験や提出物の内容ではなく、本当に働きたいと思える企業から就職先を選ぶようにしましょう。
今回は作品提出に注目して色々と紹介してきましたが、そもそも新卒採用の場合は「技術力は二の次」であることも多く、何よりも適性が重視される傾向が強いです。社会人としてコミュニケーションが取れて、向上心がある人材であれば、採用時点の技術力はそれほど問われないことも多いのです。プロの技術力の高低に比べて、学生時代の趣味の範囲の技術力の高低はそれほど大きな問題ではないことが多いためです。
プログラマーに本当になりたいと考えているのであれば、その熱い思いをしっかりとアピールして、合格を勝ち取りましょう。
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