言語というものは時間と共に変化を続けるもので、新しい言葉も次々と生み出されていきます。特に近年では、インターネットが普及したことなどの影響か、外国の言葉を基にした新しいカタカナの言葉が、より短い時間で定着しているようにも感じます。
「クラウド」というカタカナ語(外来語)は、IT業界で使われる「クラウドサービス」や、資金を集める「クラウドファンディング」などの他、商品やサービスの名前にも使われています。この「クラウド」という言葉は、使われ方で意味が異なっているので注意が必要です。
カタカナで「クラウド」となる英単語
日本では「クラウド」が含まれている言葉が色々な場面で使われていますが、カタカナにすると「クラウド」になる英単語は複数あるため、言葉によって意味が違うという複雑な事が起きています。
カタカナにすると「クラウド」となる英単語には以下のようなものがあります。
英単語 | 主な意味 |
---|---|
cloud | 雲 |
crowd | 大衆 |
cloudとcrowdの発音の違い
雲を意味するcloudとはLとRの発音が異なっていますが、英語から「カタカナにした際に同じになってしまう」という典型パターンです。
Google翻訳での発音表記の違いは以下のようになっています。

上記発音記号を見てわかる通り、LとRの部分しか発音の違いがありません。
クラウドの「聞き分け」と「発音」
英語に不慣れな日本人には聞き分けが難しいですが、Rの巻き舌によって籠ったような音になっている方が「crowd : 大衆」で、鮮明に聞こえる方が「cloud : 雲」といえます。
発音する場合には、「cloud : 雲」は「クラウド」、「crowd : 大衆」は「クゥラウド」と速く言うと似た様な音になります。また、最初の音はクでなくK音、最後の音はドではなくD音で、母音がない音なので注意が必要です。
cloudとcrowdの意味の違い
cloudとcrowdについて、それぞれの辞書的な意味の違いを確認してみましょう。
雲を意味するクラウド「cloud」
「雲」を意味する「cloud」は、日本では学校教育でも習う英単語で、多くの日本人はクラウドと聞くと、雲が思い浮かぶことでしょう。
cloudは、英単語としては以下のような意味を持っています。
- (不可算名詞) 雲
- (可算名詞) 大群・雲り
- (他動詞) 曇らせる
- (自動詞) 曇る
雲という意味合いの名詞として使われる他に、動詞としても使われる英単語です。天気以外でも、日本語と同じように表情や名声などを「曇らせる・汚す」といった意味合いでも使われます。

大衆を意味するクラウド「crowd」
「大衆」を意味するcrowdは、日本では少し馴染みのない英単語かもしれません。
crowdは、英単語としては以下のような意味を持っています。
- (加算名詞) 大衆・群衆
- (他動詞) 群がる・詰め込む
- (自動詞) 殺到する
日常会話では過去分詞系の「crowded : 混雑している」が使われることが多く、沢山の人であふれているイメージが強い単語でもあります。
日本で意味が変わってしまっている外来語
日本で使われる外来語(カタカナ語)の中には、元の意味から変わってしまっているものがあるため、注意が必要です。
日本で「車の混雑」というと「ラッシュ」が思い浮かびますが、ラッシュは「急ぐ」の意味で、本来は混雑しているという意味ではありません。詳しくは以下の記事で紹介していますので、興味ある方は是非ご覧下さい。
「クラウド○○」はcloudとcrowdのどっち?
日本では「クラウド」と単体で使う場合もあれば、他の言葉と組み合わせた「クラウド○○」のような言葉として使われることもあります。
それぞれ元の英単語の意味なのかを確認していってみましょう。
ITで使われる「クラウドサービス」は「cloud : 雲」
現代では、単に「クラウド」とカタカナで表記する場合、「クラウドサービス」の事を指していることが多いです。
クラウドサービスとは、インターネットを介して提供されるデータやアプリケーションのことです。「クラウド」というのは、インターネット経由で提供されるコンピュータの利用形態を意味します。
「クラウドサービス」の「クラウド」は雲を意味するcloudが基になっています。
「雲」で表現されるインターネット空間
インターネット空間という雲のように広大な世界の向こうに物理的なコンピューターが隠れていて、利用者はその機器を意識する必要がないのが「クラウド」サービスの特徴です。
クラウド型の構成は、クラウドサービスと呼ばれるようになる以前から、資料などでインターネット側の構成を「雲で表現」することが多かったこともあり、徐々にクラウドという呼び名が広まっていったとされています。
以下の画像はApple社の提供するiCloudというクラウド型のサービスですが、名称もアイコンも雲のcloudになっています。

インターネット経由でサービスの提供が始まったころは、物理的な機器や回線を個別に準備するのが当たり前でしたが、クラウドサービスの登場によって「機器すらもインターネット経由で調達」できる時代になったといえます。
「クラウド構成」の反対は「オンプレミス構成」
少し英語の話から脱線し、IT関連の雑学を紹介します。
インターネット上でサービスを提供する場合には、サービスを提供する機器(サーバー等)が必要になります。
現在ではクラウドを活用した「クラウド構成」を選択することが多くなりました。回線やサーバーなどをインターネット上の仮想機器にすることは、機器の故障リスクやメンテナンスコストを低減させるため、長期運用するサービスなどでは積極的に選択されます。

クラウドが登場したことによって、インターネット上の仮想機器などを利用しない従来の方法は「オンプレミス構成」と呼ばれるようになりました。省略してオンプレと呼ばれることもあります。オンプレミスは、自社で機器等を準備してシステムを構築・運用してサービスを提供する形態を意味し、IT業界ではクラウドの対義語のように使われます。
資金を集める「クラウドファンディング」は「crowd : 大衆」
ITとは関係のないところでも「クラウド」が含まれたカタカナの言葉を聞くことがあります。
一般の人から広く資金を集める事を「クラウドファンディング : crowdfunding」と呼びます。これはcrowd(大衆)とfunding(資金調達)を合わせた造語です。KickstarterやCAMPFIREなどのサービスが有名で、最近では省略してクラファンと呼ばれることも多いようです。
その他にもインターネット上で不特定多数(の大衆)に業務を委託するビジネス形態をクラウドソーシングと呼び、日本ではクラウドワークス(CROWDWORKS)などのサービスがありますが、この「クラウド」も大衆を意味するcrowdとなっています。
ゲームなどで使われる「CC」は「crowd control」
近年では競技性の高いゲームが世界的に人気で、eSportsとして親しまれています。従来の単純なゲームから、ルールは複雑になり、インターネット経由で接続して複数人が同時に参加する形態も増えています。
ゲームの中で、敵や相手チームを眠らせたり麻痺させるなどの行動阻害効果を、クラウドコントロール(CC : シーシー)と呼びます。
この英語は「crowd control」なので、「大衆を制御する」という意味の言葉です。
CC(シーシー)という略称は海外でも使われており、仲間と連携して敵に連続してCCを与えることは、Chain CCやCC Chain(日本ではCCチェイン)と呼ばれ、勝つための大事な戦略のひとつとされています。
クラウドコントロールというカタカナから、「雲の操作」と勘違いしてしまわないように、元の英単語も覚えておくと良いかもしれません。海外の試合なども観るようにすると、自然と英単語が覚えられることもあるのでオススメです。
カタカナ語には注意しよう
日本語のカタカナ語は、外国語を取り込むことが容易で柔軟性に優れた言語システムではありますが、今回紹介したクラウドの様に、発音の違う異なる単語が同じものになってしまうこともあり、使い方については注意しなければなりません。
外来語を使う際には、できるだけ「元の単語」を意識しながら使うと良いでしょう。日本語と外国語に加えて、別途カタカナ語を覚えることは無駄ですし、その言葉が通じるのは日本で同じカタカナ語を知っている人だけに限られるからです。
英語以外も多いカタカナ語(外来語)
カタカナ語に向き合うと、日本で使われるカタカナの外来語が、英語以外にもたくさんあることに気付きます。言語はその国の歩んできた歴史に影響されていることが多く、日本も例外ではありません。
身近な言葉の中にも英語以外の外来語は多くあるものです。食べ物の「パン」が英語でないことは有名です。以下の記事では、パンという言葉の由来や歴史などについても紹介していますので、興味のある方は是非ご覧ください。
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