クーデターは何の罪になる? – 日本の刑法

クーデターは何の罪 政治

現代において、クーデターを画策したり実行に移して失敗すると、日本では何の罪になるのでしょうか。今回は、日本の刑法において「クーデター計画や実行」に対して適用される可能性があるをいくつかまとめて紹介しています。

クーデターは何の罪?

クーデターは、フランス語の「coup d’état」に由来する言葉で、英語では単純に「coup : クー」とも呼ばれます。

クーデターとは一般に、軍隊組織や政治家が非合法的に、かつ公然と、暴力的な手段を行使して、政権を転覆させること、またそれを試みることを指します。

日本でクーデターを起こすと、以下のような罪に問われる可能性があります。

内乱罪

クーデターを起こすと、「内乱罪」に問われる可能性が高いでしょう。

(内乱罪)
政府の転覆など、国家の基本的組織を不法に変革・破壊する目的で暴動を起こす罪

「内乱に関する罪」は、刑法の第77条から第80条にかけて、細かく内容が規定されています。

条項内容
第77条内乱
第78条予備及び陰謀
第79条内乱等幇助
第80条自首による刑の免除
内乱罪の定義 – 刑法条項

刑法第80条では、第78条・第79条の罪を犯した者であっても、暴動に至る前に自首したときは、その刑を免除すると規定されています。

内乱罪の刑罰

刑法第77条の刑罰は以下の様に規定されています。

対象刑罰
首謀者死刑又は無期拘禁刑
謀議参与者・群衆指揮者無期又は3年以上の拘禁刑
諸般の職務従事者1年以上10年以下の拘禁刑
付和随行者・単なる暴動参加者3年以下の拘禁刑
内乱罪(刑法77条)の刑罰

また、第78条(予備及び陰謀)、第79条(内乱等幇助)の刑罰は以下と定められています。

対象刑罰
内乱の予備又は陰謀をした者1年以上10年以下の拘禁刑
第77条、第78条の罪を幇助した者7年以下の拘禁刑
予備及び陰謀(刑法第78条)、内乱等幇助(第79条)の刑罰

内乱等幇助の内容は、「兵器資金若しくは食糧を供給し、またはその他の行為により」とされています。

ただし、刑法は現在の統治機構を前提に作られているため、クーデターが成功した場合、内乱罪は適用されないことになるでしょう。

外患罪 (外患誘致罪・外患援助罪)

クーデターの際に、外国勢力の援助などを受けていた場合には、「外患罪」に問われる可能性があります。

(外患罪)
外国と共謀して日本に対して武力を行使させる行為

内乱罪が「国内での暴動を引き起こす行為」であるのに対し、外患誘致罪は「外国からの武力行使を引き起こす行為」という点で異なっています。

「外患に関する罪」は、刑法第81条、第82条、第87条、第88条に規定されています。

条項内容
第81条外患誘致
第82条外患援助
第83条 削除
第84条 削除
第85条 削除
第86条 削除
通諜利敵の為の破壊行為
通諜利敵の為の物品供与
スパイ活動
前5条以外の全ての通諜利敵行為
第87条未遂罪
第88条予備及び陰謀
第89条 削除戦時同盟国に対する行為

外患罪の刑罰

外患罪は、刑法が規定する罪としては最も重罪ですが、現在までに適用された例はありません。

対象刑罰
外患誘致 (第81条)死刑
外患援助 (第82条)死刑又は無期若しくは2年以上の拘禁刑
未遂罪 (第87条)同罪 (第81条、第82条に従う)
予備及び陰謀 (第88条)1年以上10年以下の拘禁刑

首謀者の刑罰は死刑のみで、たとえ未遂であっても、実行した場合と同様の罰が処されるという、かなり厳しい内容となっています。

テロ等準備罪

クーデターは、国の「政権を転覆させること」ですが、その目的のために集団で犯罪計画を立てたり、準備を進めると「テロ等準備罪」に問われる可能性があります。

(テロ等準備罪)
組織的な犯罪集団が重大な犯罪を計画し、その計画を実行するために準備行為をした場合に適用される罪

テロ等準備罪は、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法)に法的な根拠を持つ罪です。同法律が2017年7月11日に改正され、新たに設けられました。

法務省によると、この法律は国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結するための法律とされています。TOC条約により、国外逃亡した犯罪者の引き渡しなどが可能となっています。

引用 : 法務省:テロ等準備罪について

また法務省によると、同法律によって処罰できるようになったケースとして、以下のようなものが挙げられています。他にも化学薬品の製造など、いくつかのパターンが紹介されています。

(法務省からの引用)
テロ集団が分担してウイルス・プログラムを開発し、そのウイルスを用いて全国各地の電力会社、ガス会社、水道会社等の電子制御システムを一斉に誤作動させ、大都市の重要インフラを麻痺させてパニックに陥らせることを計画した上、例えば、コンピュータウイルスの開発を始めた

テロ等準備罪の刑罰

テロ等準備罪は比較的新しい法律で裁判例も少なく、具体的な解釈は、今後の裁判の積み重ねで明らかになっていくようです。

現段階では、以下のような罪に問われる可能性があります。

(暴力行為等処罰法)
集団または多数による暴行、脅迫、器物損壊、強要などの行為を、刑法で定められたものよりも重く処罰する法律

適用の例としては、暴力団による集団的な暴力行為、学生運動における暴力行為、 家庭内暴力やいじめなどが考えられます。具体的な刑罰は、行為の内容や状況によって異なり、拘禁刑や罰金刑が科せられます。

(凶器準備集合罪) – 刑法208条の2第1項
身体・財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して集合した者、または凶器の準備があることを知って集合した者に成立する犯罪

「傷害に関する罪」で、「傷害罪 : 刑法第204条」に付随する条項です。傷害目的で集合しただけで成立する罪で、刑罰は「2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金」とされています。

共謀罪との違い

テロ等準備罪は、法改正前に議論されていた「共謀罪」と混同されることがあるようです。

(共謀罪)
2人以上の者が特定の犯罪を行うことを話し合い、合意するだけで成立する犯罪

話し合いの対象が、長期4年以上の懲役または禁錮に当たる重大な犯罪(殺人、強盗、監禁)だった場合に罪に問われる内容でした。

テロ等準備罪は、計画に加え、「実行のための準備行為」がなければ処罰されません。

テロ等準備罪は、共謀罪の議論などを踏まえ、重大な犯罪の実行を計画し、準備行為をした者を処罰できるようにしたものです。

クーデターの歴史

令和の日本は、政治の面では自民党が過半数を割るなど様々な変化が見られ、治安の悪化なども懸念されてはいますが、大きな暴動や軍事衝突などはなく、平和といえるでしょう。幸いな事に戦後の日本では大規模なクーデター事件は起きていません。(終戦直後の「宮城事件」の他は、1961年の「三無事件」などがある)

戦前のクーデターとしては二・二六事件などが有名ですが、日本の幕末期には、政権の主導権を得るためのクーデターが複数回行われ、最終的な勝者の政治体制が現代の歴史まで続いています。興味のある方は、是非以下もご覧ください。