「女性だけの街」から考える – 近代インフラ整備の歴史

インフラ整備の歴史 歴史

「女性だけの街」のインフラはどうするの?--そんな指摘を聞いたことはないでしょうか?
新しい街や国を作ろうとすると、インフラの整備は欠かせません。今回は、明治時代以降にどのようにインフラが整備されていったのか、歴史を振り返ってみます。

インフラはどうするの? -「女性だけの街」

男性社会に否定的なネット上の女性たちの間では「女性だけの街」を希望する声があり、実際に資金を集めるためのクラウドファウンディングが始まったことで多くの人の注目を集めました。

インフラの整備と維持に疑問の声

「女性だけの街」を作りたいという一部女性たちの声に対しては、賛同する女性たちの声がある一方で、男性たちからは冷ややかな反応も多く寄せられています。

その中でも特に特徴的なのが「インフラ」に関する指摘です。

インフラとは、社会や生活を支える基盤となる、道路、電気、水道、通信などの施設や設備のことを指します。英語の「infrastructure」を略した言葉で、日本語では「社会基盤」とも訳されます。

具体的には、以下のようなものがインフラとして挙げられます。

  • 交通インフラ : 道路、鉄道、空港、港湾など
  • エネルギーインフラ: 電気、ガス
  • 水道インフラ: 上下水道
  • 通信インフラ: 通信ネットワーク、インターネット
  • 公共施設: 学校、病院、公園など
男性が作り・支えるインフラ

インフラの業務には、3K(きつい、汚い、危険)に相当する作業も多く、歴史上その多くは男性が担ってきており、現在も多くの男性が従事して社会を支えています。

現在では女性の社会進出が進んだことで、インフラ業務にも女性が携わるようになってきてはいますが、相変わらず男性の方が圧倒的に多く、その比率は8:2から9:1程度といわれています。

女性の中でも意見が分かれるインフラ対応

女性だけの街の実現を阻むような男性からの指摘に対して女性も反論しています。以下に有名なSNSの投稿を引用して紹介します。

女だけの街を望む声に、必ず「ならインフラ始め社会設備等、男がいなけりゃなりたたないだろ!」のクソ煮詰めた様な事言ってくる奴らいるけどバカ丸出しすぎるだろ。 それらに従事してる女の存在は無かった事にしてるし男がいなけりゃ女だけでやるに決まってんだろ。 何よりそういう場所から女を差別して排除してきた側の性別がどのツラ下げて言ってんだよ。ちったぁわきまえろや。

引用 : Xの投稿

上記のような「インフラも女性がやる」といった意見の他にも、「インフラの整備・維持は男性にやらせる」「拒否は女性差別だ」といった意見も見られ、女性の中でも意見が分かれている状態です。

また、インフラに従事している女性からは「男性がいないと難しい」という声もあがっています。

男性からは厳しい意見も

実現することを見据えて現実的な指摘をするネットの声に対して現実を見ようともせず理想論だけで反論しようとする女性に対し、男性たちからは厳しい意見が寄せられています。

男性が苦労して作り・維持している社会基盤の上で甘えているだけという指摘や、結局誰一人として「自分がやる」といわず全員が他人任せな状態であることから、女性だけの街でやりたい事はキッザニアと同じだと揶揄されることもあります。

キッザニアは、メキシコで1999年に創設された、子供向けの職業体験型テーマパーク。日本では東京ららぽーと豊洲内にある。

女性だけの社会構築は日本でも大きな話題となっていますが、世界的にも話題になっています。インフラについての指摘や反論も海外で同じようなことが繰り広げられています。

近代インフラ整備の歴史

生まれた時からあるものは「あって当たり前」と思ってしまいがちですが、実は先人たちの努力が積み上げられていて、私たちはその上で快適な生活ができています。

意外なことに、身近な水道や電気といった当たり前のインフラは新しいものではなく、そのほとんどが明治時代以降のものばかりです。令和時代の高齢者や後期高齢者の中には、幼い頃には無かったものがあるレベルです。

ここでは各インフラが日本でどのように整備されてきたのか、少し歴史を振り返ってみましょう。

各インフラの歴史

明治政府は、欧米の先進技術を導入し、「富国強兵・殖産興業」を推進するために、物流・人流の高速化を目指し、インフラの整備を推し進めました。

インフラはどれも重要ではありますが、交通のインフラがなければ、人が生きていくことは困難でしょう。エネルギー通信は、現代においては必要不可欠なインフラではありますが、女性だけの街のような最小限の生活を目指す場合は優先度が下がるかもしれません。

物流の要 – 交通インフラ

人や物を移動させるには交通インフラが必要です。

その土地ですべてを賄うことができないのであれば、別の場所から輸送してくる他ありません。特に重要な物資は「食料」でしょう。自給自足をしていたとしても、不作で全滅したくなければ、外部から食料調達する手段は必要になるでしょう。

江戸から明治期の道路・港湾

日本でも街づくりなどと共に「道路」は最低限作られていましたが、大きな幹線道路(五街道など)は江戸時代になってから参勤交代などのために整備されはじめます。明治時代に入ると「軍用道路」や「郵便道路」が整備されていきますが、鉄道が優先され、道路は後回しにされる傾向がありました。

海洋国家である日本では、港は輸送の要です。明治時代以降は大型の軍艦なども停泊できるように改修が進められ、現在でも海上輸送に欠かせません。特に横浜・神戸・長崎・函館・新潟などの開港場を中心に整備されました。

明治期に重要視された鉄道

日常生活に欠かせない「鉄道」は、明治時代に入るまで日本にはありませんでした。明治の最初頃(1872年)に新橋横浜間に最初の鉄道が開通します。(イギリスの技術・資金援助により)

その後、日本全国縦横無尽に鉄道が張り巡らされました。短期間に広い範囲に鉄道を敷設した日本は、世界中を驚かせるほどのレベルで、明治政府がどれほどまでに鉄道の輸送網を重要視していたかが伺えます。

生存と衛生に重要な水 – 上水道・下水道

人は水がない環境では3日も生きられません。そのため飲み水の確保は最優先事項です。明治時代には、コレラなど感染症対策として、清潔な水の供給が重視されました。

また、地震などの災害で下水道に障害が出ると、避難地域のトイレなどは直ぐに大変な状況になってしまうことが知られています。人は生きている限り排泄を止めることはできません。衛生状態を維持するためにも下水処理のインフラは大切です。

明治から大正期に進められた上水道整備
  • 井戸水(自家水):個人や共同体が地下水をくみ上げて使う。
  • 上水道(公共水道):水源(川・ダム・地下水など)から取水し、浄水処理・配水管網を通じて家庭や工場に水を供給するインフラ。

江戸時代は、江戸などの一部都市に木樋(もくひ)や石樋による簡易上水道がありました。
明治時代になって、1887年(明治20年)に日本初の近代上水道「横浜市水道」が完成します。その後、神戸(1897)、長崎(1891)、大阪(1895)などでも整備が進められます。
大正時代に入ると、工場などにも水道が重要となり、感染症対策の観点から「医療インフラ」としても扱われるようになります。

昭和期に義務化された水の供給

昭和時代は、戦争で多くの上水道が破壊されたため、戦後は上水道の普及が大きな課題でした。1957年に「水道法」が制定され、安全・安定・計画的な水の供給が法律で義務化されました。水道普及率は1950年に30%台でしたが、1970年には80%を突破しています。

つまり、令和の高齢者世代は、若いころは井戸水生活だったのが、大人になって徐々に便利な水道が整備されていった時代を生きている人たちということになります。

江戸から明治期に変わった「下水」の扱い

明治時代の日本では、下水処理の概念はまだ乏しく、遅れて整備が進められます。排水路や側溝の整備が中心で、本格的な下水道整備は大正時代以降に進められます。

そもそも江戸時代(~1868年)までは、し尿は農業用の「資源」として扱われ、売買の対象でした。

明治時代になると、人口増加の兼ね合いで「資源としての消費が限界」となった上、赤痢などの感染症が蔓延したため、衛生対策が喫緊の課題となります。

明治期にとられた対策によって生活排水は川や海に捨てられるようになり、し尿は変わらず汲み取り式で、人力搬出が主流でした。

大正期から昭和期に発展した下水処理

大正時代に入って、尿運搬車(馬車型)が使われ始め、昭和にはいって1931年頃に日本で初めてバキュームカーが登場します。1922年に神戸市「東灘処理場」が日本初の下水処理場として稼働しはじめます。その後、1930年代に入ってようやく東京・大阪などにも下水処理場が順次整備されていきます。

1970年代以降になると、都市部を中心にトイレの水洗化率が急上昇します。並行して汲み取り便所の割合は減少し、バキュームカーの役割も縮小していきます。平成~令和の時代でも、山間部や離島、一部未整備地域でバキュームカーは今も活躍しています。

外国に依存する日本のエネルギー

人は、薪を拾って火をつけて調理をする生活から、ガスや電気を使った近代的な生活に移行しました。

エネルギーを利用し続けるためには、ガスや発電のための燃料が必要になります。現在の日本は、そのほとんどを海外からの輸入に頼っています。

エネルギー資源輸入依存率(2022年度時点)
原油約97–98%
LNG(天然ガス)約99.7%
石炭約99.6%
日本のガス・燃料の輸入依存度
明治期のガス灯~戦後に普及したガス

明治初期の1872年(明治5年)、東京・銀座に日本初のガス灯が点灯します。同年に東京ガス会社が設立され、全国でも同じようなガス会社が次々と設立されます。明治後期にはガス灯は電気に置き換わっていきますが、以降も調理や過熱用途などでガス自体は使われ続けます。

各家庭にプロパンガスが使われ始めたのが1950年以降で、1960年代に入って急速に普及します。それまでは薪を拾って火をつけて料理をしていたことになります。並行して都市ガスも整備・普及が進んでいきます。

年代都市ガス普及率LPガス普及率(家庭)
1950年代約20〜30%ほぼゼロ〜10%未満
1960年代約40〜50%急成長(〜40%程度)
1980年代約60〜70%約40%(地方で主流)
現在(2020年代)約55〜60%(地域差あり)約40〜45%
都市ガスとプロパンガスの普及
明治末期に電灯~戦後に家電製品

明治時代初期は、世界的にもようやく電気の活用が始まった頃です。(世界初の発電所 : 1882年)
日本では、1888年に東京電灯会社が白熱灯の供給を開始します。明治末期には大都市を中心に電灯・電力網が形成され、工場や鉄道(特に都市内の電車)への電力供給にも利用されるようになります。

幕末から明治期にかけてのアメリカと日本の「電気」については、以下の記事の「電気の発見と実用化が進められていた江戸時代」にもまとめてありますので、詳しく知りたい方は是非ご覧ください。

現代の日本では主に「電力会社」が電気の供給を担っていますが、当時は「電灯会社」であり、電気は名前の通り電灯用途でした。家電製品の登場は戦後の高度経済成長期に入ってからの事です。

現代の重要インフラ – 通信

現代社会において、通信インフラは重要な役割を果たしています。電話やインターネットは日々の生活に欠かせません。

明治から昭和期の電話

電話は、1877年にアメリカのベルで開発されました。

日本には1890年(明治23)に電話事業が開始されます。1900年に入ってから軍・官庁・財界中心に電話の加入者が増加します。当時は交換手による手動交換(電話交換局)でした。

大正時代から昭和時代にかけて、電話の交換が自動化され、通信インフラとして民間にも普及し始めます。

戦後1960年代くらいに電話は爆発的に普及し、1964年には東京オリンピックに合わせて、全国ダイヤル通話網が完成します。1985年に電信電話事業は民営化され、電電公社が現在のNTTになりました。

電電公社は、日本電信電話公社(にっぽんでんしんでんわこうしゃ)の略称で、1952年から1985年まで日本に存在した国営の通信事業体です。

平成から令和期に急速に広まったインターネット

インターネットは、1995年にWindows95が登場して以降、日本でも急速に広まっていきますが、当時は電話回線を使ったダイアルアップ形式が主流でした。現在の様な光ファイバー網は2000年代以降に整備されたものです。

年代出来事
1992年インターネットに接続可能な商用サービス開始(IIJなど)。
1995年Windows 95発売で家庭のPCとインターネットが爆発的に普及。
1999年iモード登場:携帯電話でインターネット利用が可能に。
2000年ADSL普及開始、ブロードバンド時代へ。
2001年Yahoo! BB開始で高速インターネットが一般化。
2008年iPhone発売:スマートフォン時代の幕開け。
2010年代LTE/光回線が主流化、SNS・動画配信の定着
2020年以降5G開始テレワーク・オンライン授業などが社会インフラに。
インターネットとスマートフォンの普及

こうしてみると、インターネットが活用され始めてからそれ程時間が経過していないことに、改めて驚かされます。

インフラは整備と維持が大変

インフラの整備の歴史を見てきましたが、私たちが日常的に使っている便利な近代インフラは、とても歴史の浅いものであることが分かります。また、整備には外国の技術が、維持には外国の資源を頼りにしながら進められていることも分かります。

女性だけの街のような、新しい居住区域を作ろうとすると、技術や資源と共に、それらを整備する膨大な労働力も必要になります。

外国に行ってまでやり方を学び、国に戻ってきて実際に実践し、現在のような近代的な国を作り上げた明治時代以降の先人たちの努力や行動力に、改めて敬意を感じずにはいられません。

女性だけの街を作るなら – インフラ整備の優先度

最後に、女性だけの街に限りませんが、新しい生活区域を構築する場合に、各発展段階ごとにインフラ整備をどのように進めていくべきかをまとめてみましょう。

発展段階優先インフラ
開発途上段階水・道路・電気・衛生などの「生存と物流系」
都市化進展期通信・鉄道・上下水道・教育・病院などの「都市機能系」
高度経済成長期高速道路・空港・新幹線・情報通信(電話・ネット)
現代・先進国再生可能エネルギー、スマートシティ、防災、デジタル基盤など
発展段階と優先すべきインフラ整備

ただし、ここでまとめている優先順位は一般論であり、地理的条件や規模などによっても変わってくるため、そういった事を総合的に判断できる「リーダー」の存在は重要になるでしょう。