chest「箱」が「胸」を意味するようになった理由 – 時代と共に変化する言語

chest-meaning 雑学

言語を学習していると、一つの単語の中にまったく異なる意味が含まれていて不思議に思うことがあります。現代においては、複数の意味を巧みに使ってジョークにされることもあったりしますが、日本人としては「何故そんな複雑なことになったのか」と由来が気になったりするものです。

今回は、ゲーム配信などでよく耳にすることがあるchest(チェスト)という英単語に、「箱」という意味の他に「胸」の意味がある理由を紹介しながら、類似した英単語や、日本語での似た様な事例をまとめています。言語というものは、人々の生活と共に長い時間をかけて徐々に変化していく大変興味深いもので、現代に生きている私たちも、そんな言語の変化の中にいるのです。

「箱」を意味するchestが「胸」を意味する理由

英単語のchestは、日本ではカタカナでそのまま「チェスト」と表現されることも多く、とても馴染みのある外来語の一つでしょう。「箱」の意味で使われることが多いですが、特にゲームなどでは宝箱のような「アイテムが入っている箱」を指してチェストと呼ぶことが多いようです。

しかし、英単語のchestには、「箱」という意味の他に「胸」の意味もあり、海外の女性ゲーム配信などでは、視聴者がそれらを掛けた下ネタをコメントするということも珍しくありません。一つだけ例を紹介します。

上のショート動画は、マインクラフトというゲームにて、配信者(VTuber)がchest(箱)を置くという話をすると、視聴者が「chest(胸)は右下にある」と、画面右下のキャラクターの胸部を指すセクハラ的なコメントをしています。ショート動画としては、そのコメントに対しての配信者の対応が素晴らしいという趣旨となっています。

日本人としては「箱」と「胸」という共通点のなさそうな2つの言葉が、同じ単語の意味になっていることは不思議に感じてしまいます。なぜこのようなことが起きたのでしょうか。

「胸」は心臓や肺などが入った大事な「箱」

下ネタで使われる場合などは、表面的な「胸」の意味合いで使われることが多いですが、実際には医学などの分野で人体の重要な器官が収まっている「箱」の意味合いで、chestという単語が使われ始めたようです。

chest(胸-医学)

重要器官が入っているchest「箱」だった胸が、徐々に広い意味で「胸」を指す言葉へと変化していき、現代の様に「表面的な胸」のことも指す言葉になっていったようです。使っているうちに、徐々に意味が広がったり、発音が言いやすい形に変化するということが、長い言語の歴史の中ではよく見られます。

紹介した配信者さんの切り抜き動画について

上で紹介したセクハラコメントへの素晴らしい対応をしている配信者(VTuber)さんについても簡単に紹介します。

ラオーラ・パンテーラ (Raora Panthera)さんは、hololive English -Justice-に所属しているVtuberさんです。イタリア出身ですが、配信では主に母国語のイタリア語ではなく英語で行われており、日本語は勉強中とのことです。イタリアの人への定番のネタであるパスタや、ケチャップパスタのナポリタンなどの反応などは、日本人としてはとても興味深く、そして楽しく見ることもできます。日本の事を、英語でfar east(極東の国)と表現するところがとても印象的です。

YouTube Channel : Raora Panthera Ch. hololive-EN

切り抜き動画(HoloShortChips)さんのチャンネルでは、hololive Englishの様々なショート動画を中心にアップされています。面白い瞬間を切り出したショート動画からは、印象的な英語のフレーズや、文化の違いなどを短い時間で知ることができて、とてもありがたいです。

興味のある方は、是非他の動画もチェックしてみてください。

「臓器」を意味するorganが「楽器の名前」な理由

似た様な変化をしている単語に、「臓器」を表す英単語のorganがあります。

上記画像はYouTube動画のサムネイルから引用させていただきました。Path of ExileというゲームにあったMetamorphというゲームメカニクスにおいて、organ(臓器)を集めてモンスターをクラフトするという仕様があり、それが儲かるのかといった趣旨の動画となっているようです。現在のPath of Exileからはこの仕様は削除されています。

organは、元々体内の臓器を表す英単語ですが、不思議なことに楽器の「オルガン」のことを指す英単語でもあります。

「臓器のようなパーツ」を組み合わせた「楽器」

オルガンと一言だけ聞くと、私たち日本人としては幼稚園や保育園に置いてある簡素な鍵盤楽器を思い出しますが、本来オルガンというのは大聖堂などにおいてあるような巨大なパイプオルガンのような楽器でした。パイプオルガンは、様々な大きな部品を組み合わせて作る楽器で、その部品の事や組みあがった楽器の事を、臓器に例えてorganと呼び始めたようです。

パイプオルガン(in PoE)

元々は組み立て前の部品の事をorganと呼び始めて、後に組みあがった楽器そのものもorganと呼ぶようになったのかもしれません。同じ作品やゲームなどの中に、臓器も楽器も登場するような場合は、文脈からどちらの事を意味しているのかを考えなければならないことになります。

chestと同じように、本来の意味とは違う分野で単語が使われるようになり、その使われ方が変化していっています。そして今、パイプオルガンのような大きなものでない、小型のオルガンの事も、私たちはorganと呼ぶようになっているため、単語の由来が簡単には想像できなくなってしまっています。

言葉の意味が変化している日本語

日本語でも、言葉の意味が変化する現象は起きています。いくつか例を挙げてみてみましょう。

ありがたい = めったにない

「ありがたい」という言葉の意味が、昔と今では異なっている話は有名です。

元々は漢字で書くと「有難い」で、「めったにないこと」といった意味でしたが、現代では「感謝する」意味に変化しており、お礼の言葉として「ありがとう」という言葉が日常的に使われるようになっています。

この変化に伴って、現代では本来の意味である「めったにない」ことの意味では「ありがたい」を使うことはなくなってしまいました。

破天荒 = 豪快で大胆

「破天荒」な偉業を成し遂げたなどという表現が現代でも使われますが、この言葉は「豪快で大胆」といった意味で使われることも多くなっています。

元々の破天荒にはそのような意味はなく、本来は「今までだれもしなかったような事をすること」といった意味で、四文字熟語での「前代未聞」と近い意味でした。

あまりにもインパクトの強い「破天荒」の漢字からは、まるでアニメキャラクターの必殺技のような「豪快で大胆」なイメージが強く感じられ、時代と共に意味合いが変化しているのも分かる気がします。

生き物のように変化する言語

インターネット時代の現代では、世界中の人たちがオンラインで繋がって、お互いに言語学習をしやすい環境になりました。そういった人たちの話を聞くと、各国で学習に対する姿勢に違いがあるようで、私たち日本人には「由来」や「理由」を気にする傾向があるという話を聞くことがあります。

私個人は長い歴史を持つものが好きで、宗教・文化・言語など関連した事柄全域に興味の分野が広がってしまっていますが、もしかしたら日本人全体に、そういった物事の心理を探求する性質が備わっているのかもしれません。先祖の話に興味を持ったり、食品の原産地や製造国などが気になるという人は、日本人には比較的多いような気もします。分からないもの = 怖い・怪しいといった感覚があるのかもしれません。

言語というのは、長い時間をかけて変化していくものです。現代の私たちも、比較的安易に省略形の単語などを生み出して使っていたりしますが、中には本来の意味とはかけ離れた誤用のようなものも存在していたりもします。言葉が創り出された瞬間は、誤りだと指摘される声があったとしても、それが定着してしまうと誤用が正解となることさえもあったりします。

知識が多くなればなるほど、そのような言語の変化を受け入れることが難しくなったりもします。美しい日本語を守りたいという言語に対する愛もあるでしょう。正しい言語を後世に伝えていきたい気持ちが強くなると、誤った言語を流布する人を叱責してしまうこともあるかもしれません。言語は変化していくものだということを念頭に、すこし距離をとって冷静に時代の流れを楽しみましょう。

言語の歴史の中では、利便性だけを考えて、複数の言語をごちゃ混ぜにして使うという荒業が定着して、新しい言語体系を生み出すということもあります。言語愛のある人も、きっと呆れ果てて逆に冷静になる事間違いないでしょう。興味のある方は是非以下の記事もご覧ください。

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