複数の言語を混ぜて対話する手法が話題 – インターネットが生み出すピジン言語

ピジン言語 雑学

近年発達したインターネット上の様々なサービスによって、今は国や言語を超えて様々な人々が交流することが日常的になりました。YoutubeやX(旧Twitter)のような大手のサービスでは、言語の翻訳機能が付いていて、リンクを押すだけで簡単に異国の言葉を自分の言語に変換し、理解することができるようになっている場合もありますが、それでも異なる言語の人たちとの交流は簡単ではなく、様々な障害があるものです。

今回はそんな異なる言語間での障害、言葉の壁(Language Barrier)を解決する手法として一部界隈で話題になっている混合言語についてのお話です。専門的にはピジン言語やクレオール言語として定義される「言語の混合」が、今まさに現代のインターネット上の人々の手によって作り出されていっていることは非常に興味深い現象だと思うのです。

英語文法に漢字の名詞で日中対話

とある中国人がSNS上に投稿した「気づき」が話題になっているようです。

その中国人が言うには、日本語と中国語には似た名詞が多いため、英語から文法と副詞を借りることで、日本人と中国人が理解することが容易な文章が作れるというのです。非常に分かりやすく、そして短くまとめられた素晴らしい動画がYoutube上にあったので、こちらで紹介させていただきます。

動画内にも取り上げられている文章を一つだけ抜粋して紹介してみます。

中国人 can 理解 this 文章?

これは日本人から中国人に向けた質問で、この文章は中国人としては理解に問題がないと返答されていたようです。日本人としても、中学生レベルの英文法の上に日本語の名詞を乗せただけなので、容易に理解できる内容でしょう。

言語を習得する際に、大変な労力が必要となる単語(Vocabulary)の記憶・習得を、大幅に軽減できるこの方法は、非常に画期的な手法としてインターネット上の人々に好意的に受け入れられ、話題となっているようです。

上に紹介した動画のコメントでは、日本人と中国人がこの新しい混合言語を使って様々なコミュニケーションを試みていて、非常に興味深いです。こういった言語の構造や他言語話者とのコミュニケーションに興味のある方は是非一度観てみてください。

ちなみに、この新しい混合言語についてもYoutubeは翻訳機能を提供してくれますが、当然未知の言語なので正しく翻訳されなくなっているところも、非常に面白いと感じます。テクノロジーによって支えられるのではなく、人々の知恵で工夫することで新しい文化・文明が築かれていき、人の発展を追いかけてテクノロジーが発展していくのだと感じるのです。

ピジン言語とクレオール言語

言語が混ざり合って新しい言語を作り出す発想には驚きますが、こういった言語は今回初めて提案されてモノではなく、人類の長い歴史の中で何度も起きてきている現象で、学術的な名前も付いています。

ピジン言語

2ヶ国の言語が混ざり合って通用語となった言語をピジン言語と呼びます。ピジン言語は何度も創り出されてきており、現代でも使われているピジン言語も存在しています。有名なものには、パプアニューギニアやソロモン諸島などで使われている言語があります。

日本に馴染みのあるピジン言語としては、ハワイで使われているピジン イングリッシュと呼ばれる言語があり、英語とハワイ語を中心として、その他ポルトガル語や日本語などが混ざった言語です。その他、満州国では日本語の変種として協和語という言語も使われていたそうです。

クレオール言語

交易や商売のために作られ、話されるようになっていったピジン言語が、その子供の世代に伝わり母語となったものをクレオール言語と呼びます。

ピジン言語が発音や語彙などに個人差があるなど粗削りなのに対し、クレオール言語では言語が体系化(発達・統一)され、複雑な意思疎通が可能になったもので、完成された言語として扱われます。上記ピジン言語の項で触れたソロモン諸島の共通語は、現代ではクレオール言語として扱われているようです。

現代使われているクレオール言語には様々なものが有りますが、日本に馴染みのある言語としては台湾北東部などで使われている宜蘭(ぎらん)クレオールという言語があります。これはアタヤル語(タイヤル語)に日本語の語彙が混ざった言語となっています。日本統治時代に、台湾の原住民族が使っている言語と日本語が融合して話されるようになった言語です。その他、沖縄県などで話されている言語を、琉球言語と日本語の融合(クレオール)言語として扱う場合もあるようです。

日常でも起きうる言語の混成

ピジン言語やクレオール言語と聞くと、とても難しそうな印象を受けてしまいますが、実際には今回話題になった中国語・日本語の融合のように、「便利だから」自然発生しているものと言えるでしょう。

複数の言語を習得していっていると、会話の途中で単語が思い出せずに困ってしまうということもあります。そういった時に無言になってしまうのではなく、覚えている言語の単語で補完して話すと、ピジン言語と似た様な構造の文章が出来上がります。

こういった現象は、日常でも起きることがあります。ピジン言語やクレオール言語の存在や、利便性による言語の変化・変遷を理解した上で単語が出てこない状況をみると、また違った印象を受けるものです。

以下の動画は、母国語の単語が出てこなくなってしまうという、一種のお笑い(funny moment)のコンテンツではありますが、相手に伝えようとして母国語の英語ではなく日本語の単語が発語されており、それによって意味が理解できている人が視聴者の中にいたというのも、ひとつ重要な事実なのかとも思います。

同動画内で発話された文章を一部切り出してみてみます。

It’s so 便利.

日本にあるコインロッカーが便利だったという話の流れで、英語の便利(Convenient)が思い出せなくなってしまったので、日本語の「便利」を代用しています。

これは冒頭で紹介した、日本語と中国語の新しい混成言語と同じ体系になっていることが分かります。

インターネットで言語・文化の距離が縮まった現代

私たちが生きている時代は、インターネットの普及が進んだことで、急速に言語や文化の距離が縮まった時代と言えるでしょう。人類の長い歴史の中では、インターネットの登場から現代までは一瞬と言ってもよいほどしか時間が経過していません。まさに歴史的な瞬間の中に、私たちは生きているのです。

インターネットが普及する前は、飛行機や船に乗って海外に行ったり、海外から来日してきた外国人と会話するくらいしか、他言語話者と会話する機会というのは得られないのが普通でした。しかし、現代はパソコンやスマートフォンを使って、気軽に文字や音声による他言語間でのコミュニケーションが可能な時代で、冒頭に紹介したような言語の融合や文化的な変化が起きて行っている最中なのでしょう。

今後、インターネットによって加速した情報交換によって、世界各国で文化的・言語的な融合は加速するのかもしれません。

今私たちが話している日本語や英語といった言語は、時間と共に変化していき、ピジン言語のような利便性重視で複数言語が混成したような新しい言語が形成されていくのかもしれません。そして、そういった新しい言語の先には、世界共通言語のような万国共通の便利な言語の誕生が待っているのかもしれません。とても興味深い変化ではありますが、私たち人類の一生は短く、未来の事は想像するしかありません。私たちの世界は、今後どのように変化していくのでしょうか。

いつの時代でも、「より便利に」なるように努力した人たちの手によって、新しい文化や文明が生み出されてきました。世界が劇的に変化している現代に生きる私たちも、そういった文化を生み出す一人の人間であることは間違いないでしょう。

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