日本語でよく耳にする「オファーする」。ビジネスや芸能界では当たり前のように使われていますが、実は英語の offer とは意味が異なります。そのため、日本人学習者が英語を学ぶ際に「オファー=依頼」と覚えてしまうと誤用につながることがあります。
この記事では、日本語の「オファーする」と英語の offer の違いを整理し、正しい使い方を解説します。
日本語の「オファーする」とは?
「オファーする」という言葉は、もともと英語の offer が外来語化したものです。しかし、日本語に入った段階で意味が大きく狭まりました。現在の日本語で「オファーする」といえば、ほとんど次のようなケースで使われます。
- 依頼する
例:映画監督が俳優に出演をオファーする。 - 打診する
例:企業が候補者に内定をオファーする。
このように「お願いする」「依頼を差し出す」というニュアンスが強く、日常会話よりもビジネスや芸能界で使われることが多い表現です。
英語 offer の本来の意味
英語の offer は、日本語の「オファーする」よりもはるかに広い意味を持っています。
動詞としても名詞としても使われ、そこから派生した offering という名詞も存在します。それぞれの使い方を整理してみましょう。
動詞としての意味
offer は動詞として「差し出す・提供する」が基本のイメージです。ここから、さまざまな場面で使われます。
- 提供する
The hotel offers free breakfast.
(そのホテルは無料の朝食を提供している) - 提案する・申し出る
He offered to help me with my homework.
(彼は宿題を手伝うと申し出てくれた) - 販売する・提示する
The store is offering a 20% discount.
(その店は20%割引を提示している) - 表現する
She offered her condolences.
(彼女は哀悼の意を表した)
日本語の「オファーする=依頼する」とは大きく異なり、より広い「差し出す・提供する」の意味を持っているのです。
名詞としての意味
offer は名詞としてもよく使われます。この場合は「提案・申し出・提示された条件」という意味合いになります。
- a job offer(内定通知、雇用条件)
- an offer of help(助けの申し出)
- special offer(特別価格・特売品)
- He turned down their offer.(彼は彼らの申し出を断った)
日本語の「オファー(名詞)」は、むしろこの offer の名詞用法が直接取り入れられたと考えると分かりやすいです。
名詞形 offering との違い
ここで注意したいのが、offering (オファリング)という名詞との違いです。
- offer(名詞)
「提案・提示された条件」=プロセス寄り、抽象寄り- a job offer(内定)
- an offer to help(助けたいという申し出)
- offering(名詞)
「差し出されたもの」=結果寄り、具体寄り- a burnt offering(燔祭の供物)
- the company’s latest offering(新商品)
- a peace offering(和解のしるし)
まとめると、offer は「取引・依頼・条件」といったやりとりの内容を表すのに対し、offering は「差し出されたモノや内容」=結果そのものを表す傾向があります。
offeringとofferの間違いで生じる違和感
ゲームや映画・アニメなどでは、宗教的な「供物」や「捧げもの」として offering という英単語が出てくることがあります。もしも offering ではなく、 offer を使って表現してしまうとどうなるでしょうか?
✅ They made an offering to the gods.
(彼らは神々に供物を捧げた)
❌ They made an offer to the gods.
(直訳すると「神々に提案をした」になり、不自然)
offering という英単語は、具体的なモノを表現することが一般的になっていて、offerという英単語は条件や提案という抽象的なものを指すことが多く、不自然な表現になってしまいます。
offering と offer は両方とも同じ名詞ではありますが、意味合い・使われ方に違いがあるため注意しましょう。
日本人学習者がしやすい誤用
日本語の「オファーする」に慣れすぎると、英語でも「依頼する」という意味で使ってしまう学習者が少なくありません。
誤用例と正しい表現
- ❌ I offered him to join our project.
(直訳:「私は彼にプロジェクト参加をオファーした」→不自然)
- ✅ I invited him to join our project.(招待した)
- ✅ I asked him to join our project.(お願いした)
- ✅ I requested him to join our project.(依頼した)
つまり「依頼する」という意味合いでは、ask や invite, request が適切であり、offer は必ずしもその役割を果たさないのです。
❌ offer + 人 + to 動詞 は英語には存在しない構文です。
ここを誤用してしまう学習者が非常に多いので要注意です。
最重要ルール:offer の正しい使い方
英語学習者が混乱しやすいポイントを、シンプルに3つに整理します。これを覚えておけば誤用を防げます。
- 自分がやりますよ → offer to + 動詞
- I offered to help her.
(私は彼女を助けると申し出た)
- I offered to help her.
- 相手にモノを差し出す → offer + 人 + モノ
- He offered me a seat.
(彼は私に席を譲ってくれた) - The company offered her a job.
(その会社は彼女に仕事を提示した → 内定)
- He offered me a seat.
- 相手に〜してほしい → ask / request / invite + 人 + to 動詞
offer + 人 + to 動詞は「禁じ手」なので、別の単語で表現します- I asked him to join us.
(私は彼に参加してほしいと頼んだ) - She invited me to give a talk.
(彼女は私に講演を依頼した)
- I asked him to join us.
日本語の「オファーする」は、相手に依頼をした結果「こちらが何かを受け取る」という文脈で使われることが多いため、英語に置き換えるときに間違いやすい表現です。
一方で、英語の offer は「主語が相手に何かを差し出す」というイメージであり、物の流れはむしろ逆方向になります。
offer が自然に使える場面
それでは、英語で offer を使えるのはどのような場面でしょうか。キーワードは「差し出す」です。
- We offered him a position at our company.
(彼に当社のポジションを提示した → 内定を出した) - They offered me a seat.
(彼らは私に席を譲ってくれた) - He offered to drive me home.
(彼は家まで送ってくれると申し出た)
このように、offer は「機会・条件・モノ」を相手に差し出す場面で自然に使えます。
「provide : 提供する」との違い
日本では、「プロバイダー」のようにカタカナ語で使われることも多い provide という英単語は、「提供する」という意味をもっています。
同じ「提供する」という意味を持った offer と provide には、明確なニュアンスの違いがあるため確認しておきましょう。
単語 | ニュアンス | 相手の自由 | 典型例 | 日本語感覚 |
---|---|---|---|---|
offer | 差し出す・提示する (プロセス重視) | 受けるかは任意 | job offer, offer help | 提案する 差し出す |
provide | 必要なものを与える (結果重視) | 受け取る前提 | provide food, provide information | 供給する 用意する |
offerとprovideの使い分け
使い分けのイメージとしては以下のようになります。
- レストランの店員が「コーヒーはいかがですか?」→ offer
- レストランが「コーヒーをセットに含めています」→ provide
- 会社が「あなたにこの職を提示します」→ offer
- 会社が「社員に研修を用意しています」→ provide
「オファー=差し出す」で覚えよう
- 日本語の「オファーする」は「依頼する・打診する」に意味が限定されている
- 英語 offer は「差し出す・提供する」が基本で、幅広い使い方がある
- 日本語に引っ張られると「依頼する」という意味で誤用しやすい
- 英語では「依頼」は ask / request / invite を使い分けるのが自然
外来語は便利ですが、学習者にとって誤解の原因にもなります。「オファー=依頼」ではなく、「オファー=差し出す」と捉えることで、英語 offer を正しく使いこなせるようになるでしょう。
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