2024年8月31日に中国の測量艦が鹿児島県口永良部島近くの日本の領海に2時間近くにわたって侵入した、というニュースが報道されました。これまでにも北朝鮮がミサイルを日本のEEZ(排他的経済水域)に打ち込むといったようなニュースがあったり、中国と尖閣諸島周辺でにらみ合いが続いていたりといった報道を耳にしたことがある人も多いでしょう。2024年8月に領海侵犯された屋久島付近(永良部島近く)は、中国が領土主張している尖閣諸島とは異なる場所です。
領土・領海を守る事というのは、日本に限らず誰もが国防上重要な事であると考えていることでしょう。しかし、私たちの日常生活ではあまり意識しない言葉でもあり、曖昧にしか分からないといった人も多いのではないでしょうか。今回は、「領海・接続水域・EEZ」という言葉の定義と共に、発生した事件についても確認していってみます。
領海侵犯と無害通航権
尖閣諸島周辺で日本の領海が侵犯されてしまうことに慣れてしまっている人も多いかもしれませんが、領海というのは領土からの狭い範囲である事を理解しておかなければなりません。似た様な海の範囲を定義する言葉で、排他的経済水域(EEZ)というものがあります。これは領海から更に外側に対して決められた経済活動を行う権利を有している海域の事です。

イメージしやすいように、領海・EEZについて、海上保安庁が公開している地図を紹介します。
参考URL : 日本の領海等概念図
無害通航権 – 領海は通航しても問題ない
地図にある広い白いエリアが排他的経済水域(EEZ)、内側にある黄緑色の狭い範囲が領海で、その間には接続水域という水色の範囲が設けられています。それ以外の海については公の海であり、公海と呼ばれます。似たような言葉で領空という言葉がありますが、これは領海地域までの空を指しています。
言葉通りではありますが、領海は領土と同じように国の固有の海として認められている海域です。
領海侵犯した中国側の言い分としては、測量というのは「軍事活動でなく、安全を脅かす活動ではない」という主張をすることでしょう。これには、領海の定義内にある「無害通航権」が影響しています。平和や秩序を乱さない限り、領海の通航が可能いうのが無害通航権であり、中国軍による測量が「平和や秩序を乱し、安全を害する」に該当するかどうかが争点となります。通航したからと言って一方的な非難が難しいため、日本も慎重な対応を余儀なくされています。
領海・接続水域・EEZの定義
無害通航権の事を含めて、念のため、領海などの用語について、海上保安庁のサイトにまとめてある情報を元に確認しておきましょう。掲載している情報は、以下のサイトでもご確認いただけます。
参考URL : 領海等に関する用語 – 海上保安庁

領海 – 12海里 (約22km)
領海の基線からその外側12海里(約22km)の線までの海域で、沿岸国の主権は、領海に及びます。ただし、すべての国の船舶は、領海において無害通航権を有します。
無害通航というのは、沿岸国の平和、秩序または安全を害しない継続的かつ迅速な通航を指し、潜水艦は海面上を航行して国旗を掲げなければならない。 無害通航権の制度は、沿岸国の利益と国際航行の利益とのバランスの上に認められるものである。
(補足)
沿岸国は、無害通航は禁止することができませんが、無害でない通航を防止するための措置は行うことが可能です。この無害通航に当たらない航行を領海侵犯と呼びますが、無害通航かどうかの判断基準が曖昧なため、抗議する程度しか対応ができないのが現状です。
領海侵犯を防止するために、認められた範囲で対抗措置を行うしかありませんが、技術的な面やコストなど、解決すべき課題は多くあります。
領空侵犯 ― 空にはない「無害通航権」
国際法では「領空は、領域国(国)に完全な主権が及ぶ」とされています。
1944年シカゴ条約(国際民間航空条約) によって明確に以下と定められています。
- 国は自国の上空を自由に管理できる
- 外国の航空機は 許可なしに領空へ入ってはならない
空は海よりも“国の排他性”が強い領域とされています。
この理由には、「海は国際的な移動の必要性が高い」ことと「空は迂回が容易」であることが挙げられます。上空通過許可(オーバーフライト権)のような事前許可を取れば、通過する権利を得られます。
現時点では、宇宙空間には国家の主権が及ばない(国連宇宙条約)ため、国際的には「自由利用」が原則です。ただし「どこから上が宇宙か」は厳密な合意がまだありません。
接続水域 – 24海里 (約44km)
領海の基線からその外側24海里(約44km)の線までの海域(領海を除く。)で、沿岸国が、自国の領土又は領海内における通関、財政、出入国管理(密輸入や密入国等)又は衛生(伝染病等)に関する法令の違反の防止及び処罰を行うことが認められた水域です。
排他的経済水域 – 200海里 (約370km)
領海の基線からその外側200海里(約370km)の線までの海域(領海を除く。)並びにその海底及びその下です。
なお、排他的経済水域においては、沿岸国に以下の権利、管轄権等が認められています。
1.天然資源の探査、開発、保存及び管理等のための主権的権利
2.人工島、施設及び構築物の設置及び利用に関する管轄権
3.海洋の科学的調査に関する管轄権
4.海洋環境の保護及び保全に関する管轄権
(補足 1)
排他的経済水域はEEZと呼ばれます。これは英語のExclusive Economic Zoneの頭文字から作られた略称です。
(補足2)
北朝鮮がEEZにミサイルを撃ち込んでいることが度々報道されます。EEZは日本の経済活動をする地域であり、もしも漁業やその他海洋資源の採掘などを行っている場所に落ちてくると、甚大な被害がでることが予想され、これは日本にとって非常に危険な行為です。
屋久島近海の領海侵犯と日本の対応 (2024年8月)
以下の動画は、TBSのYouTubeチャンネルの動画で、中国海軍の測量艦が領海侵犯をしたことに対して、日本の対応が甘すぎると高市大臣が指摘していることを伝える内容となっています。
この動画は1分14秒という短い時間の中に、事件の概要と高市大臣の発言、そして高市大臣や日本の国防上の懸念などが短く簡潔にまとまっています。
お時間のある方は、短いニュースですので是非ご覧ください。
事件の概要 – 中国の測量艦が日本領海に2時間滞在
事件の概要について、動画内で使われていた地図を一部引用させていただきながら紹介しておきます。

Googleの大きな地図で屋久島の場所を確認してみます。
右の方にある赤い点線で囲まれている島が、上記地図の屋久島です。

この地図を見ると、中国から遠く離れた日本の島の横を中国軍の測量艦が2時間も滞在していたという状況が、とても異常な事態であることがよく分かります。
日本の対応 – 強い懸念を伝える抗議
この事態に対して、日本の対応としては「外務省が大使館に対して強い懸念を伝えて抗議」となっています。これはつまり大事(おおごと)にしないようにする、いわゆる「事なかれ主義」的な対応と言えるでしょう。これまでの中国に対する対応と同じと言え、とても弱腰な対応でもあります。
上記報道によると高市大臣は、今回の件はこれまでとは異なり、大使館へ懸念を伝えるだけで済ませてよい話ではないとしており、総理大臣や外務大臣、防衛大臣それぞれが中国のそれぞれのカウンターパートに厳重抗議して、再発防止を約束させる必要があると発言しています。
中国は東シナ海、南シナ海でとても高圧的な行動を繰り返しており、世界が甘い顔を続けるようであれば、増長して自体が一層深刻化してしまう懸念もあります。
中国とフィリピン公船の衝突 (2024年8月)
中国に関して、同じようなニュースが連日報道されています。同じくTBSの報道ですが、8月31日にフィリピンが公開した情報として、南シナ海の船舶の衝突事件が報じられています。
日本も過去(2010年)に尖閣諸島周辺で中国の漁船と日本の海上保安庁の船が衝突するという事件が発生していて、他人事ではありません。中国が日本の尖閣諸島の領有を主張していて、何度も日本の領海を侵犯していることは、日本国内でも知られていますが、中国は日本だけでなく、南シナ海ではフィリピンに対して同じような事を繰り返しています。
強まる中国の圧力 – 台湾有事との関連性
中国は東シナ海・南シナ海に対する圧力を強め続けており、この話題の際にはいつも台湾有事という言葉が囁かれます。
台湾は日本国民からすると独立した一つの国家ではありますが、日本という国としては台湾を国として認めていない事には注意が必要です。これは、国連のアルバニア決議に起因する古くから続いている世界的な問題の一つで、中国がよく言う「一つの中国の原則」に国際社会が準じているからに他なりません。
台湾は経済的に中国に依存している部分はあれど、国家としては完全に独立した自治を行っていて、間違いなく中国とは別の国として機能していますが、中国側としては「台湾は中国の一部」という姿勢を崩していません。
中国が台湾を軍事力も使って強制的に併合しようと動き出せば、東シナ海・南シナ海の各国だけでなく、日本との同盟国であるアメリカなどの世界中を巻き込んだ大きな紛争/戦争に発展する懸念があり、その一連の事変を台湾有事として恐れています。
今回の日本の屋久島周辺における中国軍による測量や、フィリピンにおける中国海警局の船舶が衝突している事件などは、この台湾有事の前の準備である可能性もあり、これを許してしまうと、一層台湾有事が着々と現実へと近づいてしまう危険性が高まってしまうかもしれません。
日本の安全保障の今後
(2025年加筆修正)
記事執筆時点は令和四年(2024年)で、内閣総理大臣は岸田文雄氏でした。
2025年12月時点では、本記事でコメントを引用した高市氏は内閣総理大臣になられています。レーダー照射問題などで緊張が高まる日中関係について、注目が集まっています。
変化する国際法
今回の記事に示されている内容は、2024~2025年の国際法に基づいています。
しかし、国際法というのは少しずつ変化するものです。
以下の記事は、日本の奇襲攻撃と変化する国際法について焦点をあてて解説をしています。
真珠湾攻撃の奇襲攻撃が、なぜ大きな問題とされたのか――。
国際法が変わる原因にもなった「旅順港奇襲」からの歴史を辿ります。


