食品添加物は悪なのか? ― 科学から見た「役割」と「常識」

食品添加物は悪なのか 社会

食品添加物と聞くと、「体に悪いもの」「できれば避けたいもの」という印象を持つ人は少なくありません。特に昭和に生まれた世代にとっては、食品添加物は不自然で、健康に悪影響を与える存在として語られてきました。

しかし、私たちが日常的に口にしている食品の原材料表示を見てみると、そこにはさまざまな食品添加物が並んでいます。

それらは本当に「体に悪いもの」なのでしょうか。

本記事では、食品添加物を善悪で判断するのではなく、その性質や役割を科学的に整理し、人体に与える栄養的な意味についても確認していきます。

食品添加物とは何か ―「役割」と栄養的な「効果」

食品添加物という言葉は、特定の物質名を指しているわけではありません。
多くの場合、それは「何のために使われているか」という役割によって分類されています。

たとえば、

  • 食品の酸化を防ぐためのもの
  • 分離や沈殿を防ぐためのもの
  • 味や香りを安定させるためのもの

といった具合です。

なお、食品添加物の中には、ビタミンやミネラルのように、栄養の補強を目的として使われるものもあります。これらを含め、食品添加物は厚生労働省や食品安全委員会によって科学的な安全性評価が行われ、使用基準が定められています。

本記事では、その中でも日常的に目にしやすい添加物を取り上げ、その本来の役割栄養的な効果をみていきます。

代表的な食品添加物

ここでは、食品に広く使われている添加物の中から、代表的なものをいくつか取り上げます。
すべての食品添加物を網羅することが目的ではなく、考えるための具体例として見ていきます。

酸化防止剤

食品は空気に触れることで酸化し、風味が落ちたり、品質が劣化したりします。
こうした変化を抑えるために使われる食品添加物が、酸化防止剤です。

酸化防止剤は、カップ麺やスナック菓子、清涼飲料水など、比較的保存期間が長い食品でよく使われています。

酸化防止剤として使われるビタミンC

酸化防止剤の代表例が、ビタミンCです。

ビタミンCは人間にとって必須の栄養素であり、野菜や果物などから摂取できることが知られていますが、食品中で酸化を防ぐ働きを持つ効果があるため、食品添加物としても利用されます。

原材料としての表記例
酸化防止剤(ビタミンC)
※V.Cと表記される場合もあり
原材料としての表記例
酸化防止剤(ビタミンC)
※V.Cと表記される場合もあり

ビタミンCが不足すると壊血病を引き起こすことは、歴史的にもよく知られています。
航海時代、長期間新鮮な野菜や果物を摂れなかった船乗りたちは、この病気によって命を落としました。

食品添加物として使われるビタミンCは、単なる加工のための物質ではなく、人類の健康と深く関わってきた栄養素でもあります。

ビタミンCだからといって、必ずしも健康に良いという意味ではありません。
食品添加物として含まれている量であればリスクは低く、不足している栄養を補う副次的な効果が見込まれる場合もあります。
ただし、ビタミンCも摂り過ぎれば問題となることがありますし、
食品に含まれる添加物だけで十分な栄養が補えていると考えるのは適切ではありません。

壊血病の歴史や酸化防止剤については、以下の記事でも詳しく解説しています。
💡関連記事:壊血病はどこいった? ― 今、そこに在るビタミンC

ビタミンC以外の酸化防止剤

酸化防止剤には、ビタミンC以外にも種類があります。
たとえばビタミンEは脂溶性で、油脂の酸化を防ぐ性質を持っているため、カップ麺やスナック菓子など、油分を含む食品の酸化防止剤として使われることがあります。

香料

食品の香りは、加工や保存の過程で失われやすい性質を持っています。
こうした香りの変化を補い、食品の風味を安定させるために使われる食品添加物が、香料です。

香料は、清涼飲料水や菓子類、カップ麺など、加熱や長期保存を前提とした食品でよく使われています。

香料の性質と「運び役」の存在

香料はごく微量で使われることが多く、そのままでは食品全体に均一に行き渡らせることが難しい場合があります。
そのため、デキストリンのような補助的な物質と組み合わせて使われることが一般的です。

原材料としての表記例
デキストリン/香料
原材料としての表記例
デキストリン/香料

デキストリンは炭水化物由来の物質で、香料を食品中に均一に行き渡らせる役割を担っています。
栄養補給を目的として添加されているわけではありませんが、食物繊維として扱われることもあります。

香料に関わる添加物は、あくまで食品の品質を保つことを目的として使われていますが、使用される物質の性質によっては、結果として体内で栄養的な意味を持つこともあります。

安定剤

飲料や乳製品などは、時間が経つと成分が分離したり、沈殿したりすることがあります。
こうした変化を抑え、食品の状態を一定に保つために使われる食品添加物が、安定剤です。

安定剤は、乳飲料やデザート類、調味料など、均一な状態が求められる食品でよく使われています。

栄養効果は限定的な安定剤

安定剤としては、カラギナンといった物質などが使われます。カラギナンは海藻由来の多糖類で、水分を保持する性質を持っています。

原材料としての表記例
安定剤(カラギナン)
原材料としての表記例
安定剤(カラギナン)

こういった物質の多くは、栄養補給を目的として使われるものではなく、体内でエネルギー源として利用されることもありません。
一方で、消化されにくい性質を持ちますが、食物繊維に近い特徴を持つとされることもあります。

安定剤という食品添加物は、栄養としての効果は限定的ですが、食品の状態を安定させるという重要な役割を果たしています。

乳化剤

水と油は、本来そのままでは混ざり合いません。
水と油の境界を仲介し、均一な状態を作るために使われる食品添加物が、乳化剤です。

乳化剤は、カフェオレやドレッシング、マヨネーズなど、水分と油分を同時に含む食品でよく使われています。

食品表示制度上にも違いがある乳化剤

日本の食品表示制度では、使用した添加物の「物質名」を表示するという原則があります。
例)デキストリン/香料や安定剤(カラギナン)など

ただし、種類が多すぎるためにすべてを物質名で書くことが困難なもの等に対しては、例外として「用途名だけ書いてもよい」添加物が定められています。
乳化剤はその一つで、食品等の原材料名としては物質名が記載されず、乳化剤とだけ表記されていることがよくあります。

原材料としての表記例
乳化剤
原材料としての表記例
乳化剤

乳化剤としては様々な物質が製造工程で用いられ、その多くは栄養的な価値はほとんどありませんが、味や口当たり、品質の安定には欠かせない存在です。

食品添加物は「悪」なのか?

食品添加物は人工的に付与されたもので、栄養はなく、健康に良くないものと考えられることもあります。たしかに、食品添加物の多くは栄養を補うために存在しているわけではありません。

しかし、ここまで見てきたように、食品添加物にはさまざまな種類があり、役割もさまざまです。
栄養として明確な意味を持つものもあれば、栄養とは無関係でも食品の安全や品質を支えているものもあります。

人は、よく分からないものを警戒します。
酸化防止剤と聞くと、食べ物ではない薬品のようなものを想像してしまい、健康上の問題が心配になるかもしれません。しかし実際には、ビタミンCやビタミンEといった、私たちにとって身近な栄養素が使われている場合もありました。

食品添加物の善悪を決めつけるのではなく、

  • 何のために使われているのか
  • どのような性質を利用しているのか
  • どの程度使われているのか

といった点を、正しく理解することが大事なのではないでしょうか。

食品に限らない「科学」と「常識」

今回の記事では、食品添加物について科学的な役割と栄養的な効果を整理し、私たちの常識を振り返ってみました。

食品に限らず、私たちの常識や当たり前とされている価値観がどこから来たのかを探ってみると、新しい視点を得られることがあります。

是非日々の生活の中の「当たり前」にも疑問を持ってみてください。
広く公平な視点を得ることは、誰かのためというよりも、自分自身の人生をより豊かにすることにつながるのではないでしょうか。


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