キリスト教の『七つの大罪』は、映画やアニメなどの娯楽作品で扱われることも多く、特に宗教に関心がなくとも聞いたことがある人は少なくないのではないでしょうか。
日本語で七つの大罪は、傲慢や色欲のように、それぞれ二字熟語で表されるのが一般的です。
これらは英語では何と表現されるのでしょうか。
本記事では、七つの大罪の英語表現を通して、それぞれの英単語の使われ方やニュアンスを掴みながら、キリスト教の考え方の一端を覗き見ます。
七つの大罪の英単語と日本語訳
七つの大罪は、聖書にそのまま七項目が列挙されているわけではありません。
初期キリスト教の修道生活において、人間を罪へと導く欲望や心の傾向が整理され、後世に現在の七項目が定着しました。「人間を罪へ導く根本的な心の傾向を分類する」という試みが4世紀の修道思想で始まり、200年以上かけて整理されたものといえます。
そのため、七つの大罪は「これをやったら罪」という具体的行為ではなく、
「なぜ人間は罪を犯すのか」という心理状態を表す言葉
が並んでいます。
七つの大罪を表す英語と日本語
キリスト教の「七つの大罪」は、英語では Seven Deadly Sins と呼ばれます。日本語では「七つの大罪」のほか、「七つの罪源」と呼ばれることもあります。
七つの大罪のそれぞれについて、以下の表に英語・日本語での表現と、それぞれの基本的な意味を簡単に整理します。
| 英語 | 日本語 | 基本的な意味 |
|---|---|---|
| Pride | 傲慢(高慢) | 自分を過度に高く評価し、他者を見下すこと |
| Greed | 強欲(貪欲) | 富や財産などを際限なく求めること |
| Lust | 色欲 | 過度な性的欲望 |
| Envy | 嫉妬 | 他者の幸福や優れたものを妬むこと |
| Gluttony | 暴食 | 必要以上に飲食を求めること |
| Wrath | 憤怒(激怒) | 制御を失った怒りや憎悪 |
| Sloth | 怠惰 | なすべき善や精神的な務めを怠ること |
mortal sinとseven deadly sins ― 大罪と罪源
seven deadly sinsは、日本語では七つの「大罪」と訳されることが多いですが、mortal sinもまた「大罪」と訳されます。
mortal も deadly も「死」を連想させるので、
mortal sin ≒ deadly sin
のように見えますが、これらは厳密には別の概念です。
mortal sinの方は、(行為の重大性だけでもなく)本人の認識や意思なども含めて、「犯した罪が神との関係を断つほど重大な罪に当たるか」という方向の概念になります。
そのため、七つの大罪として知られるseven deadly sinsの方は、七つの罪源と覚えた方が、その違いが捉えやすいかもしれません。
例えば、
greed(罪源) → 人を罪へ傾ける → 具体的な重大な罪 → mortal sin
のような関係があり得えます。(※必ずmortal sinになるわけではありません)
ここからは、七つの大罪のそれぞれの英単語について掘り下げてみていきます。
Pride — 傲慢・高慢
英語の pride は、日常的には「誇り」「自尊心」という肯定的な意味でも広く使われます。例えば、take pride in one’s work は「自分の仕事に誇りを持つ」という意味になります。
七つの大罪では、自分を過度に高め、神や他者に対する謙虚さを失うことを指します。ラテン語では superbia です。
Pride を使った例文
Pride は七つの中でも、日常的な意味と宗教的な意味の違いが特に大きい単語です。
日常的な用例
現代英語では「誇り」「自尊心」という肯定的な意味でも広く使われます。
I’m proud of my son.
息子を誇りに思っています。
He takes great pride in his work.
彼は自分の仕事に大きな誇りを持っています。
His pride won’t let him apologize.
彼はプライドが邪魔をして謝れない。
三番目の例文で使われている pride は、宗教的な傲慢にかなり近い意味を持っているといえます。
なお、proud は pride の形容詞形ですが、prideful という形容詞もあります。後者は「高慢な」「うぬぼれた」という否定的な意味になりやすい単語です。
宗教的な用例
Pride is the root of all sin.
傲慢はあらゆる罪の根源である。
Pride leads us away from God.
傲慢は私たちを神から遠ざける。
Greed — 強欲・貪欲
greed は、必要以上に何かを欲しがることを意味します。
特に金銭や物質的な豊かさへの欲望と結びつきます。
日本語の「貪欲」は、知識に貪欲である、といった肯定的な使い方もありますが、英語の greed は基本的には否定的な単語です。
Greed を使った例文
Greed は日常でも宗教でも意味が大きく変わらない単語です。
ただし、日常では greedy(欲張りな)という形容詞もよく使われます。お菓子を独り占めする子どもに対しても使えるので、必ずしも深刻な非難とは限りません。
日常的な用例
Greed can ruin friendships.
強欲は友情を壊すことがある。
He’s just greedy for money.
彼はただ金にがめついだけだ。
Don’t be greedy! Leave some for the others.
欲張らないで! ほかの人の分も残しておいて。
宗教的な用例
Greed is one of the seven deadly sins.
強欲は七つの大罪の一つである。
Greed turns our hearts away from God and toward material wealth.
強欲は私たちの心を神から遠ざけ、物質的な富へと向かわせる。
Lust — 色欲
lust は強烈な欲望を意味し、通常は性的な欲望を指します。
ただし、lust for power(権力欲)のように、性的なもの以外にも使われます。七つの大罪では、特に秩序を失った性的欲望を意味します。
Lust を使った例文
Lust は現代英語でも使われますが、love や desire よりも肉体的で、強い欲望を感じさせます。
日常的な用例
It wasn’t love. It was just lust.
それは愛ではなく、単なる性的欲望だった。
He has a lust for power.
彼には強烈な権力欲がある。
She’s always had a lust for adventure.
彼女は昔から冒険への強い渇望を持っている。
Lust for adventure のような表現は、必ずしも否定的ではありません。むしろ、情熱的な印象を与える場合もあります。
宗教的な用例
一方、七つの大罪の lust は、単に強い欲望一般ではなく、特に秩序を失った性的欲望を意味します。
Lust is a sin that corrupts the heart.
色欲は心を堕落させる罪である。
We must resist the temptation of lust.
私たちは色欲の誘惑に抗わなければならない。
lust は語源的には性的欲望に限定された語ではなく、むしろ元来はかなり広く「欲望・楽しみ・喜び」を表す語でした。
英語の lust も中世までは広い「欲望」を表せましたが、歴史的な意味変化の中で、次第に好ましくない肉体的欲望、とりわけ性的欲望との結びつきが強くなりました。
その結果、現代英語で単独で、
He was filled with lust.
と言えば、普通は「彼は欲望に満ちていた」ではなく、かなり明確に性的欲望を意味します。
Envy — 嫉妬
envy は、他人が持っている幸福、能力、財産などを羨み、妬むことです。
英語には jealousy という似た言葉があります。
一般的には、
- envy は「他人が持っているものを羨む」
- jealousy は「自分が持っているものを奪われることを恐れる」
という違いがあるといえます。ただし、現代の日常英語では両者の意味はかなり重なっています。
Envy を使った例文
Envy は、他者の幸福や所有物、能力などを羨む気持ちを表します。
日常では軽い羨望にも使われますが、宗教的には、他者の幸福を妬むことが問題になります。
日常的な用例
I envy your ability to stay calm.
いつも冷静でいられる君の能力が羨ましい。
I’m so envious of your vacation!
あなたの休暇が本当に羨ましい!
She couldn’t hide her envy of her sister’s success.
彼女は姉(妹)の成功に対する嫉妬を隠せなかった。
宗教的な用例
Envy causes us to resent the blessings of others.
嫉妬は、他者が受けた恵みを妬ませる。
We should rejoice in others’ happiness rather than give in to envy.
嫉妬に屈するのではなく、他者の幸福を共に喜ぶべきである。
日常会話の I envy you! は、単純に「羨ましい!」という親しみのある表現として使えます。
しかし、宗教的な envy は、他者が善いものを持っていることを悲しんだり、その人が幸福であることを不快に感じたりする悪徳を指します。
Gluttony — 暴食
gluttony は、過剰な飲食や食べ物への執着を意味します。
日本語の「暴食」は大量に食べる行為を連想させますが、キリスト教の伝統では、量だけでなく、食べ物への過度なこだわりや節制の欠如も問題になります。
Gluttony を使った例文
Gluttony は、七つの大罪としての意味が比較的強く残っている単語です。
日常会話では、名詞の gluttony よりも glutton(大食漢)や gluttonous(大食いの、貪欲な)が使われることもあります。
日常的な用例
That was pure gluttony. I ate the whole cake!
完全に食べ過ぎだったよ。ケーキを丸ごと食べちゃった!
I’m such a glutton when it comes to chocolate.
チョコレートのこととなると、私は本当に食いしん坊なんだ。
He’s a glutton for punishment.
彼はわざわざ苦労を背負い込むような人だ。
Glutton for punishment は、ぜひ覚えておきたい慣用表現です。文字どおりには「罰を貪る人」ですが、実際には苦労することが分かっていても、繰り返し引き受けるような人を指します。
宗教的な用例
Gluttony is the excessive desire for food and drink.
暴食とは、飲食物に対する過度な欲望である。
The sin of gluttony reminds us of the importance of self-control.
暴食という罪は、私たちに自制の重要性を思い起こさせる。
Wrath — 憤怒
wrath は、非常に強い怒りを意味します。
日常会話で一般的な anger よりも文学的・宗教的な響きを持つ言葉です。
the wrath of God(神の怒り)という表現もあります。
七つの大罪として問題になる wrath は、怒りという感情が存在すること自体というより、怒りが理性や慈愛による統御を失い、憎悪や復讐などへ向かうことを指します。
Wrath を使った例文
Wrath は、日常的な anger よりも格調高く、激しく、時には恐ろしい怒りを表します。
現代英語では、宗教的な文章、文学、映画、ゲームなどで見かけることが多い単語です。
日常的な用例
You don’t want to face her wrath!
彼女を本気で怒らせない方がいいよ!
He incurred the wrath of his boss.
彼は上司の激怒を買った。
The decision sparked the wrath of the public.
その決定は世間の激しい怒りを招いた。
宗教的な用例
The wrath of God is revealed against all ungodliness.
神の怒りは、あらゆる不信心に対して示される。
Human wrath can lead to hatred and violence.
人間の憤怒は、憎悪や暴力につながり得る。
キリスト教では人間の wrath は罪源とされますが、聖書には the wrath of God(神の怒り)も登場します。神の怒りは、伝統的な神学では、感情の制御を失った怒りではなく、悪や不正に対する正義の表れとして理解されます。
また、face someone’s wrath(誰かの怒りに直面する)や incur someone’s wrath(誰かの怒りを買う)は、宗教以外でも使われる定型的な表現です。
Sloth — 怠惰
sloth は怠けることを意味しますが、日常的な laziness よりも宗教的・文学的な響きがあります。
動物の「ナマケモノ」を表す単語でもあります。
キリスト教の伝統では、単に働かないことではなく、神への愛や精神的な善を追求する意欲を失うことも含みます。ラテン語の acedia と関係する概念です。
Sloth を使った例文
Sloth は、七つの大罪の中でも、日常的な意味と宗教的な意味を区別して理解しておきたい単語です。
現代英語で単に「怠け者」と言いたい場合は、lazy や laziness の方が一般的です。
日常的な用例
His sloth is starting to affect his work.
彼の怠惰が仕事に影響し始めている。
I spent the entire weekend in complete sloth.
週末は丸々、何もせず怠惰に過ごした。
I was too lazy to cook dinner.
夕食を作るのが面倒で、何も作らなかった。
日常例文の sloth は、あえて少し文学的・冗談めかした響きを出したものです。
普通の会話であれば、3番目の例のように lazy や laziness を使う方が自然です。
宗教的な用例
Sloth is not merely laziness, but a neglect of our spiritual duties.
怠惰とは単に怠けることではなく、精神的な務めを怠ることである。
Spiritual sloth can lead us away from prayer and good works.
精神的な怠惰は、私たちを祈りや善行から遠ざけることがある。
宗教的な sloth には、ラテン語 acedia と関係する精神的な倦怠や、善に向かう意欲の欠如という意味があります。
例えば、仕事に熱心で、社会的には成功している人でも、神への愛や精神的な務めを完全に放棄しているなら、宗教的な意味での sloth が問題になり得ます。
七つの大罪の英単語と日常会話
ここまで七つの大罪の英単語の用例を見てきましたが、日常会話においては、七つの大罪の語をそのまま使うより、別の単語や派生形の方が自然な場合もあります。
自然な日常表現として代替できる英単語について、簡単にまとめて紹介します。
| 表現したいこと | 自然な日常表現 | 七つの大罪の語 |
|---|---|---|
| 誇りに思う | proud | pride |
| 欲張りだ | greedy | greed |
| 性的な欲望 | sexual desire / lust | lust |
| 羨ましい | jealous / envious | envy |
| 食べ過ぎた | ate too much | gluttony |
| 激しく怒っている | furious | wrath |
| 怠けている | lazy | sloth |
特に、wrath と sloth は、日常で使うと少し大げさだったり、文学的に聞こえたりすることがあります。一方、pride は肯定的にも否定的にも使われ、envy は軽い羨望から深い嫉妬まで表現できます。
言葉の背景にある世界観とその理解
傲慢という言葉は、日本語では否定的に捉えられる言葉でしょう。
一方、七つの大罪の傲慢を表す英単語の pride は、日本語ではプライドとも表され、この言葉は必ずしも否定的に使われるとも限りません。
英語の pride は、日本語の傲慢とプライドの両方を兼ね備えた単語で、文脈によって捉え方が分かれる単語でもありました。
言葉の背景には歴史や宗教・思想など様々な世界観があり、その理解は文章などを正確に捉えることに役立つかもしれません。
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