英語を学ぶ日本人にとって、「success」という単語は比較的よく知られています。
「成功」という意味はすぐに思い浮かび、サクセスストーリーなどの形でカタカナ語としても使われています。
一方で、似た形を持つ succession という単語の意味を調べると、「成功」ではなく 「継承」 という全く異なる意味になっていることに、少し違和感を覚えるかもしれません。
なぜ全く意味の違う語が似た形なのか――。
本記事では、successとsuccessionの語源や派生語をたどりながら、英語と日本語で単語の関係がどのように整理されているのか、その構造的な違いを見ていきます。
successの語源 ― 「後に続く」という意味
success と succession の関係を理解するには、まず語源を見る必要があります。
これらの言葉はラテン語 succedere に由来する同じ語族です。
ラテン語 succedere
succedere は
- 後に続く
- 後から来る
- 後を継ぐ
といった意味を持つ動詞でした。
語の構造は次のように説明できます。
sub(下から)
+
cedere(行く)
つまり 「後から入ってくる」「後に続く」 というイメージです。
ここから英語では多くの語が生まれました。
success語族の基本構造
succedere から派生した語を並べると、次のような語群になります。
| 単語 | 意味 |
|---|---|
| succeed | 後を継ぐ / 成功する |
| successor | 後継者 |
| succession | 継承 |
| successive | 連続した |
| success | 成功 |
この表を見ると分かる通り、語族の多くは
- 継承
- 後継
- 連続
といった意味を持っています。
つまり、この語族の中心にある概念は 「後に続くこと」 です。
successとsuccessionの意味の分岐
同じ語族でありながら、success と succession は大きく意味が異なります。
この違いは、語義の変化によって生まれました。
successの意味変化 ― 継承から成功へ
success は元々「結果」「成り行き」といった意味で使われていました。
そこから次第に次のような意味変化が起こります。
後に続く
↓
物事の成り行き
↓
うまく進む結果
↓
成功
つまり success は 「物事がうまく進んだ結果」 を表す言葉として定着しました。
この意味が、現在私たちが知っている「成功」です。
successionが残した元の意味
一方で、語源の意味をより強く残しているのが succession です。
succession は
- 継承
- 後継
- 王位継承
といった意味で使われます。
例えば英語には次のような表現があります。
royal succession
(王位継承)
line of succession
(継承順位)
つまり succession は 地位や権力が次の人に受け継がれることを表す言葉です。
歴史でよく登場するsuccession
この言葉は歴史用語でもよく登場します。
例えば
War of the Spanish Succession
(スペイン継承戦争)
War of the Austrian Succession
(オーストリア継承戦争)
といった名称があります。
いずれも王位継承をめぐる争いを指しており、
英語では succession が 王位や家系の継承と強く結びついた語であることが分かります。
succeedが持つ二つの意味
語源の関係は、動詞 succeed を見るとさらに分かりやすくなります。
succeed=成功する
一つ目は、よく知られている意味です。
He succeeded in business.
(彼はビジネスで成功した)
ここでの succeed は「成功する」という意味です。
succeed=後を継ぐ
しかし succeed にはもう一つの意味があります。
He succeeded his father as king.
(彼は父の後を継いで王になった)
つまり succeed は 「後を継ぐ」 という意味でも使われます。
日本語では
- 成功する
- 継ぐ
は全く別の言葉です。
しかし英語では、同じsucceedという語の中に両方の意味が含まれています。
日本語では成功と継承は別の言葉
日本語では
- 成功
- 継承
- 後継
は、それぞれ独立した言葉です。
語源的にも意味的にも、直接のつながりはありません。
そのため英語の語族を日本語に訳すと、次のようになります。
| 英語 | 日本語 |
|---|---|
| success | 成功 |
| successor | 後継者 |
| succession | 継承 |
英語では一つの語族に属していた言葉が、日本語では 別々の語として分かれて訳されているのです。
翻訳によって見えにくくなった語族
これは翻訳の過程で語族が「分けられてしまった」というより、
それぞれの意味に最も近い日本語の言葉が選ばれた結果と考えることができます。
日本語にはもともと「成功」「継承」「後継」といった独立した言葉があり、それぞれの概念を表す語彙が存在していました。
そのため英語の語族構造をそのまま再現するのではなく、意味に応じて別々の語で表現する形になったのです。
結果として、日本語話者から見ると
success
successor
succession
が同じ語族であることは、少し分かりにくくなっています。
これは英語と日本語で概念の整理の仕方が異なることによって生まれる違いと言えるでしょう。
西洋語を日本語に訳す過程では、このように言葉の関係が見えにくくなることもあります。翻訳語がどのように作られたのかについては、以下の記事でも紹介しています。
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日本語と英語の構造的な違い
英語では語族によって単語がつながりますが、日本語では漢字の意味によって語の関係が理解されることが多くあります。
日本語は、「似た語=意味は似ている」場合が多いですが、英語は語根から意味が分岐した結果「形が似ていて意味が違う語」が多い言語と言えます。
語族ネットワークと意味ネットワーク
英語は語根から派生語が広がる構造が非常に強い言語です。
success / succession以外にも、似たような構造をした多くの語があります。
ひとつの例として、語根 duc / duct(導く)の派生語を見てみましょう。
| 単語 | 意味(日本語) |
|---|---|
| produce | 生産する |
| reduce | 減らす |
| introduce | 紹介 |
| conduct | 指揮 |
| educate | 教育 |
日本語の訳語だけを見ると統一感がないように見えるかもしれません。しかし英語では、これらは語根「導く」から派生した同じ語族の言葉です。日本語話者にとっては、似た単語で意味が大きく異なることに違和感を感じるかもしれません。
しかし、日本語と英語はそもそも別の言語であり、その構造も同じではありません。
英語は 語族によって派生語が広がる言語、
日本語は 意味によって語の関係が理解される言語
と捉えることもできます。
こうした違いを意識してみると、英単語や英語という言語の見え方も少し変わってくるかもしれません。
そしてこの違いは、言葉の構造だけでなく、私たちが物事をどのように整理して理解するかという感覚にも関係しているのかもしれません。
英語と日本語の違いなどに関心のある方は、是非以下のような記事もご覧ください。
